ベース奏者マテウス・ニコライエフスキーの注目のデビュー作
ブラジルに生まれ、現在はオランダで活動するベーシストのマテウス・ニコライエフスキー(Matheus Nicolaiewsky)が、イスラエル出身米国在住、南米音楽に造詣の深いギタリストのヨタム・シルバースタイン(Yotam Silberstein)と、ブラジルのドラマーキコ・フレイタス(Kiko Freitas)とのトリオでデビューアルバム『Volume I』をリリースした。収録曲はジャヴァン、カエターノ・ヴェローゾ、アントニオ・カルロス・ジョビン、ドミンギーニョス、ドリ・カイミといったブラジルを代表する作曲家たちの作品をカヴァー。有名曲だけでなく、彼らのあまり知られていない曲にも焦点を当てており、3人のブラジル音楽への愛情がより深い形で結実し、それがリスナーにもダイレクトに伝わる演奏が素晴らしい。
(1)「Samba Dobrado」はブラジリアンAORの旗手ジャヴァン(Djavan)の3rdアルバム『Alumbramento』(1980年)収録曲のカヴァー。原曲よりもさらに2拍4拍を強調する典型的なサンバのリズムへとアレンジされ、メロディーやコード進行の美しさも際立つ秀逸なカヴァーだ。マテウス・ニコライエフスキーは今作でエレクトリック・ベースとダブルベース弾き分けており、ここでは原曲のイメージに近しいエレキベースで低音を支えながら、随所に粋な小技を挟むプレイで魅了する。
ブラジルのレジェンド、カエターノ・ヴェローゾ(Caetano Veloso)のデビュー作『Domingo』(1967年)の1曲目に収録されており、今作中でもっとも世界的に知られた曲であろう(2)「Coração Vagabundo」は、トリオによるブエノスアイレスの「Bebop Club」でのライヴ演奏が収録されている。ヨタム・シルバースタインの流麗なギターは特筆もので、イマジネーションに溢れた即興は必聴だ。
(5)「Without You」はポルトガル語の原題「Sem Você」、邦題「あなたなしでは」として知られるアントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim)の名曲。
イヴァン・リンス(Ivan Lins)の(8)「Abre Alas」では原曲の個性的で開放的な感覚をヨタム・シルバースタインの空間的なプレイによって見事に体現している。
Matheus Nicolaiewsky – electric bass, double bass
Yotam Silberstein – electric guitar, nylon string guitar
Kiko Freitas – drums