幼少期からの“中世への憧れ”を具現化。ロシア出身鍵盤奏者エレーナ・エケモフによる荘厳な新譜

Yelena Eckemoff - Scenes from the Dark Ages

中世をテーマにしたエレーナ・エケモフ新譜『Scenes from the Dark Ages』

ロシア出身の女性ピアニスト/作曲家、エレーナ・エケモフ(Yelena Eckemoff)が、彼女の長いキャリアでも異色といえる荘厳な作品『Scenes from the Dark Ages』をリリースした。アルバムは彼女が幼少期の頃から憧れを抱いていたヨーロッパの中世をテーマにしており、ジャズ、プログレッシヴ・ロック、バロック音楽などが融合する独自の世界観を描いた105分間の長大な音楽絵巻となっている。

バンドは6人編成で、エレーナ・エケモフがピアノやオルガンなど鍵盤楽器を弾くほか、イタリア出身の4人──ギタリストのリカルド・ベルトゥッツィ(Riccardo Bertuzzi)、フルート奏者カルロ・ニチータ(Carlo Nicita)、ヴァイオリン奏者のエロイーザ・マネーラ(Eloisa Manera)、ベーシストのリカルド・オリヴァ(Riccardo Oliva)──と、そしてインド・ムンバイ出身の伝説的なドラマー/パーカッショニストのトリロク・グルトゥ(Trilok Gurtu)で構成されている。

全15曲がエレーナ・エケモフのオリジナルで、クラシックの室内楽やプログレッシヴ・ロックの要素が強く、曲名に象徴されるようにアルバム全体でひとつの物語を提示する。アンサンブル全体で即興で刺激・呼応しあうような即興性は薄いが、構築美に優れた楽曲群となっている。各曲は独立した物語を持ちつつ、全体として中世のタペストリーのような連続性を持っている。

(1)「Pilgrims」

トリロク・グルトゥがドラムスやタブラなど多彩な打楽器で描き出す多様なリズムも聴きどころだ。彼のバンドでの貢献によってヨーロッパの中世というステレオタイプなイメージを易々と超え、空想的な音の広がりを持たせることに成功している。

自由度といて観点では、国際的なキャリア豊かなギターのリカルド・ベルトゥッツィのプレイも面白い。彼の個性的で推進力のある演奏が楽曲の中に色彩感をもたらし、ときに映画的なドラマ性を強調している。

(10)「Chivalry」

Yelena Eckemoff 略歴

エレーナ・エケモフはソビエト連邦時代のロシア共和国・モスクワで生まれた。母親はプロのピアニスト兼教師で、エレーナも4歳の頃から母親からピアノのレッスンを受け始めている。7歳で才能ある子供のための学校であるグネーシン国立音楽大学に入学、その後モスクワ国立音楽院でクラシックピアノを学んだ。卒業後にモスクワでピアノ教師の職に就きながらピアニストとしてソロコンサートを開催し、ジャズのレッスンを受け、様々な楽器のために作曲し、さらにジャズロックバンドで演奏した。

1991年に夫とともにアメリカ合衆国に移住。子育ての中で一時的に音楽活動を中断したが、自身のピアノ教室の設立や教会の聖歌隊の指揮などで再開。2009年以前は主にクラシック、フォーク、キリスト教宗教音楽の分野で活躍したが、2010年のアルバム『Cold Sun』以降の活動はジャズが中心となっていった。

音楽以外に詩や絵画でもその才能を発揮しており、エレーナ・エケモフの作品のジャケット・アートのほとんどは彼女自身が描いている。

Yelena Eckemoff – piano, organ, clavichord, celesta, synths
Riccardo Bertuzzi – electric guitar
Carlo Nicita – soprano frute, alto flute, bass flutes
Eloisa Manera – violin, electric violin
Riccardo Oliva – electric bass
Trilok Gurtu – drums, percussion

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