“歌うドラマー”セルジオ・ヘジ、ブラジル音楽史を高濃度に凝縮したデビュー作『Um Olhar Interior』

Sérgio Reze - Um Olhar Interior

セルジオ・ヘジによるブラジル音楽史を俯瞰するデビュー作

ブラジル音楽ファンにとっては堪らないアルバムだ。
ロサンゼルスの音楽学校ミュージシャンズ・インスティチュートを卒業後ブラジルに戻り、1990年代からの長いキャリアの中でイヴァン・リンス、パウリーニョ・ダ・ヴィオラ、エルザ・ソアレス、シコ・ブアルキ、ミルトン・ナシメント、ジョアン・ボスコ、アンドレ・メマーリといった名だたるミュージシャンたちと共演を重ねてきたベテランのドラマー、セルジオ・ヘジ(Sérgio Reze)がついに自身初のリーダー作 『Um Olhar Interior』をリリース。その輝かしい経歴を辿るように、ブラジル史に残る名曲の数々をドラムス、クラリネット、ピアノ、ベースのジャズ・カルテット編成で仕立て上げた。

本作はセッション・ミュージシャンとして多忙を極めていたセルジオ・ヘジが新型コロナ禍によって活動の一時的な休止を余儀なくされたときにその構想が練られた。内省の機会の中で、彼は自身のルーツであるブラジル音楽の深掘りを決意。とりわけ自身が少年期、青年期である1970年代前後によく聴いていた曲を選び、いずれもブラジリアン・ジャズの名手であるクラリネット奏者のアレシャンドリ・ヒベイロ(Alexandre Ribeiro)、ピアニストのダニエル・グラジェウ(Daniel Grajew)、ダブルベース奏者のシヂエル・ヴィエイラ(Sidiel Vieira)とともにSergio Reze Falando Música Quarteto(セルジオ・ヘジ 音楽を語るカルテット)を結成した。

選曲も素晴らしい。ショーロ最初期の女性作曲家シキーニャ・ゴンザーガ(Chiquinha Gonzaga, 1847 – 1935)の(1)「Gaúcho (Corta Jaca)」に始まり、ピシンギーニャ(Pixinguinha, 1897 – 1973)の(2)「Um a Zero」、カ・シンビーニョ(K-Ximbinho, 1917 – 1980)の(3)「Ternura」、ノエル・ホーザ(Noel Rosa, 1910 – 1937)の(4)「Conversa de botequim」とまずはショーロの歴史を愛おしむように辿る。

(2)「Um a Zero」

(5)「Asa Branca / o Trenzinho do Caipira / Lôro」はメドレーとなっており、ブラジル北東部音楽の父ルイス・ゴンザーガ(Luiz Gonzaga, 1912 – 1989)、西洋クラシックにブラジルの伝統を持ち込んだエイトル・ヴィラ=ロボス(Heitor Villa-Lobos, 1887 – 1959)、そしてクラシック/ジャズ/ポピュラー音楽に跨り革新を起こしたエグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti, 1947 – )それぞれの代表曲をエキサイティングに繋げている。冒頭とエンディングでは、セルジオ・ヘジの代名詞でもある精緻に調律されドラムセットに組み込まれたゴング・メロディコ(Gong Melódico)による「Asa Branca」の美しい旋律の響きを楽しむことができる。

(5)「Asa Branca / o Trenzinho do Caipira / Lôro」

アントニオ・カルロス・ジョビン(Antônio Carlos Jobim, 1927 – 1994)のボサノヴァ誕生の曲(6)「Chega de Saudade」、ルイス・ボンファ(Luiz Bonfá, 1922 – 2001)の(7)「Manhã de Carnaval」で軍事政権前の社会へのノスタルジーを描き、つづくバイーアのドリヴァル・カイミ(Dorival Caymmi, 1914 – 2008)とミナスの“街角クラブ”のメドレー(8)「O Vento / Vera Cruz」、そしてミルトン・ナシメント(Milton Nascimento, 1942 – )&ロー・ボルジェス(Lô Borges, 1952 – )による(9)「Clube da Esquina No. 2」へ。世界的にも類を見ない豊かなハーモニーやメロディーをもったこれらMPB(Música Popular Brasileira, ブラジルのポピュラー音楽)の黎明期に生まれ現在でも歌い継がれる名曲たちに、この歌心に溢れたカルテットは最大限のリスペクトを捧げる。

(9)「Clube da Esquina No. 2」

(10)「Laser」は現代ブラジルで最高の詩人のひとり、ゼー・ミゲル・ヴィズニキ(Zé Miguel Wisnik, José Miguel Wisnik, 1948 – )の遅咲きのデビューアルバム『José Miguel Wisnik』(1992年)に収録されているシンプルだが幻想的な美しさをもった曲。

清涼で開放的なアンドレ・メマーリ(André Mehmari, 1977 – )の名曲(11)「Lagoa da Conceição」を経て、ラストのA.C.ジョビン作曲(12)「Chovendo na Roseira」(バラに降る雨)へ。イントロでは再びゴング・メロディコが登場。このメロディーが、ドラムセットにゴング・メロディコを組み込み、ドラムスを文字通り“歌うように”奏でるというセルジオ・ヘジ独自のスタイルを築く発想の源となったという。

Sergio Reze Falando Música Quarteto :
Sérgio Reze – drums, gong melódico
Alexandre Ribeiro – clarinet
Daniel Grajew – piano, accordion
Sidiel Vieira – contrabass

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