刺激的すぎる…!モダン・パンデイロの巨匠、トゥーリオ・アラウージョが奇才ピアニストと組んだ『Quantum』

Túlio Araújo & Daniel Grajew - Quantum

ブラジルのパンデイロ奏者のトゥーリオ・アラウージョ(Túlio Araújo)がピアニストのダニエル・グラジェウ(Daniel Grajew)とデュオを組んだ2019年作『Quantum』。ゲストにダニ・グルジェル(Dani Gurgel)レア・フレイリ(Lea Freire)など人気音楽家たちが参加している。

トゥーリオ・アラウージョがパンデイロひとつで叩き出すグルーヴに乗せて、ダニエル・グラジェウのサーカスのようなピアノが舞う。

(1)「Sete Vidas」ではピアノとディジュリドゥ、シンセのイントロに始まり、パンデイロの強靭なリズムが繰り出される。中間部ではインド音楽由来のボル(口タブラ)も飛び出すなど、多様な音楽的バックグラウンドが伺える演奏になっている。

(2)「Rios Voadores」には木管奏者カルロス・マルタ(Carlos Malta)が複数の木管楽器を用い、複雑なハーモニーを積み重ねる。トゥーリオ・アラウージョのパンデイロはこの曲では決して主役ではないが、抑揚の効いたリズムは完璧なサポートだ。

(3)「Óleo Branco」はクラシックにジャズ、ブラジル土着の音楽まで幅広い経験を持つダニエル・グラジェウらしい個性的なピアノが炸裂する。右手と左手がまるで別々の意思を持つかのように動き回り、ブラジルの名曲「Asa Branca」や「Tico Tico no Fuba」のメロディーをユーモラスに引用している。

(4)「Quantum」は人気バンド、ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテート(DDG4)のヴォーカリスト、ダニ・グルジェル(Dani Gurgel)がスキャットでゲスト参加。

(6)「Winter Flower」はブラジルを代表する天才作曲家/フルート奏者のレア・フレイリとの共演だ。

DDG4のダニ・グルジェルが軽やかなスキャットを披露する(4)「Quantum」

パンデイロの革新者トゥーリオ・アラウージョ

トゥーリオ・アラウージョはこれまでもイスラエルジャズからの影響を受けた『East』や、ショーロの名曲の再解釈を含んだ『Monduland』など、現代のブラジル音楽の中で特異な存在感を示してきたパンデイロ奏者だ。

打面の端を親指で叩く低音はバスドラム、平手で中央を叩く中音がスネア、そして細かくリズムを刻むジングルがハイハットシンバル──。トゥーリオ・アラウージョは、マルコス・スザーノ(Marcos Suzano)が切り拓いた“小さなドラムセット”にも形容される打楽器パンデイロのモダン奏法を研究し、サンバやショーロなどのブラジル音楽だけでなく、ジャズやロックといったジャンルでもパンデイロでの表現の可能性を追求してきた。2012年作『Manguêra』ではそのマルコス・スザーノとも共演している。

トゥーリオはパンデイロの教本(『Polyrhythms on Pandeiro』という名称で、パンデイロの中〜上級者を対象としている)も出版するなど、既にマルコス・スザーノ以降の時代を代表するモダン・パンデイロ奏者として確固たる地位を築いている。

パンデイロという楽器の秘められたポテンシャルを追求する稀有なアーティストとして、トゥーリオ・アラウージョの新鮮なアプローチはとても有意義で刺激的だ。

(7)「Pentágono」のスタジオセッション動画。

Túlio Araújo – pandeiro
Daniel Grajew – piano, synth
Dani Gurgel – vocals (4)
Carlos Malta – flute, saxophone, bass clarinet (2)
Jorge Continentino – pifano (8)

Lea Freire – flute (6)
Babu Xavier – percussion

Túlio Araújo & Daniel Grajew - Quantum
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