バイーア出身のSSW、Jadsa 新譜『big buraco』
ブラジルのSSW、ジャジザ(Jadsa)の2ndアルバム『big buraco』がリリースされた。非凡な才能で驚かせたデビュー作『Olho de Vidro』(2021年)から4年、今作はプロデューサーにリオの鬼才アントニオ・ネヴィス(Antônio Neves)を迎え、前作からより洗練・深化した極上のサウンドを聴かせてくれる傑作だ。
ブラジル北東部のバイーア州出身のジャジザはエリス・へジーナ(Elis Regina)やイタマール・アスンサォン(Itamar Assumpção)、ドリヴァル・カイミ(Dorival Caymmi)といったブラジル音楽の先駆者たちからの影響が根底にあるほか、トロピカリアやアフロビート、ヒップホップ、レゲエなど幅広い音楽を吸収している。さらに(1)「big bang」でのブルーノートの多用に見られるようにブルースやソウルといった米国の黒人音楽からの強い影響も顕著に表れる。ここにオルタナティヴ・ジャズの分野で注目を浴びるアントニオ・ネヴィスの類稀なセンスが加わった音作りは驚くべき仕上がりだ。
ダブの強い影響下にある(2)「tremedêra」や(9)「your sunshine」や、DJ/ヒップホップ文化を反映した(5)「big luv」などの音響処理も面白い。全体的に精神性はロックやパンクに通じ、サイケデリックな音作りを通じて彼女の先鋭性を浮き彫りにする。
アルバムはリオデジャネイロのスタジオで、7日間で録音・制作された。ジャジザとアントニオ・ネヴィスが中心となって即興的に紡がれたアイディアはすぐにアレンジへの昇華・反映され、その結果、生々しい熱量を失わないまま、洗練されたサウンドが完成。今作には多様な音楽性が詰まっているが、同時に批判を恐れずにアーティスティックに表現するMPBの熱い血が流れている。
歌詞は愛、人生、海、母といった普遍的なテーマを扱いつつ、ブラジルの社会的・政治的現実への批評も含んでいる。ラストの(12)「big buraco」はアントニオ・ネヴィスらしい少しおどけたようなサウンドに乗せて「大きな無関心 / 大きな軽蔑 / 大きな銃 / 大きなブラジル)というフレーズで、ブラジルの矛盾や危機を鋭く指摘。ユーモアと皮肉、親しみやすさと批評性が共存する歌詞がジャジザというアーティストの個性を際立たせている。