バルカンや東欧の文化と連帯するドイツ発の多国籍大世帯バンド、Batiar Gang 本能を刺激する新譜│Musica Terra

バルカンや東欧の文化と連帯するドイツ発の多国籍大世帯バンド、Batiar Gang 本能を刺激する新譜

Batiar Gang - Spice Express

バチャール・ギャング、最高に刺激的な新作『Spice Express』

ウクライナ出身のメンバーらによってドイツで結成された大世帯バンド、バチャール・ギャング(Batiar Gang)が約7年ぶりの2ndアルバム『Spice Express』をリリースした。ライヴ感に溢れ、東欧の伝統音楽やバルカン音楽を掛け合わせたエネルギッシュで刺激的なブラス・サウンドが最高に昂る一枚だ。

アルバムの冒頭、(1)「Sve Sto Cveta」はバチャール・ギャングの特徴であるクレズマーやジプシージャズの融合を体現した熱い曲。バンドの中心的な楽器であるトランペット、サックス、クラリネット、2台のアコーディオン、ドラム、ベースが使用されており、さらにゲスト参加するトビアス・グリースバッハ(Tobias Griessbach)によるブズーキと、ニック・テーレ(Nik Thäle)によるパーカッションが強力な推進力を発揮している。

シングルとして先行リリースされた、ブルガリア語で歌われる(6)「Acuka」は自由への賛歌。歌詞は個人の時間と人生の主導権を取り戻したいと歌い、現代社会の労働至上主義や、個人の価値が仕事やその成果で測られる文化に疑問を投げかけている。「人生の終わりに後悔するのは、キャリアやお金ではなく、愛する人との時間を充分に過ごせなかったこと」との視点から書かれており、人間の不完全さや幸福への渇望を、情熱的なブラスサウンドに乗せて表現している。

(6)「Acuka」

(3)「Kestenje」はバンドがセルビア、ブルガリア、ウクライナなどへの旅で得たインスピレーションを反映し、バルカン音楽の伝統を現代的に再解釈した楽曲。タイトルの「Kestenje」はセルビア語またはクロアチア語で「栗」を意味する。バルカン地域では、栗は秋の象徴であり、収穫や季節の美しさ、コミュニティの集まりを連想させるモチーフだ。7拍子のリズムや独特の音階を用いたメロディーにも多様な音楽文化からの影響が盛り込まれている。

(2)「Why Is She so Mental」のライヴ動画

(8)「The Chicken Song」にはバルカン・ブラスを代表するマケドニアのバンド、コチャニ・オルケスタル(Kočani Orkestar)の元リーダーで“King”の異名を持つトランペット奏者ナート・ヴェリオフ(Naat Veliov)がゲスト参加。

今作で唯一、楽器を用いない美しいアカペラのコーラスが印象的な(12)「Sabrali Sa Se Sabrali」は、ブルガリアの伝統歌のカヴァーだ。ブルガリア南部のロドピ山脈に伝わるこの素朴だが東欧らしい複雑さを持ったこの曲は、“彼らは集まった”の意味を持つ曲名とあわせ、バチャール・ギャングの強固な連帯を象徴するトラックとなっている。

Batiar Gang 略歴

バチャール・ギャングは、ドイツのライプツィヒを拠点として2014年に結成された多国籍の音楽集団。アコーディオン奏者/ギター奏者/作曲家のシュテファン・ヴェツィヒ(Stefan Wetzig)を中心に、メンバーは10名を超える大世帯で、ウクライナ出身のリード・ヴォーカリストのレア(Lea)や東欧音楽に魅了されたミュージシャンたちにより、バルカン音楽、クレズマー、ジプシージャズ、ポルカ等を融合した独自のサウンドを生み出している。

バンド名の「Batiar」は、ウクライナのリヴィウ地方のスラングで“自由奔放な若者”を意味し、彼らのエネルギッシュで反骨精神溢れる音楽性を象徴。

2023年のライヴ映像(今作未収録曲)

初期は地元の小さなライヴハウスやストリートで演奏し、観客を巻き込む情熱的なパフォーマンスで注目を集めた。2017年に自主制作のEP『Batiar Calling』をリリースし、東欧の伝統音楽に現代的なダンスビートを織り交ぜたスタイルで話題となる。2018年に初のフルアルバム『Go East』を発表し、ドイツ国内のワールドミュージックシーンで評価を得る。2025年3月には2枚目のアルバム『Spice Express』をリリース。ウクライナ、セルビア、ブルガリアなどへの旅からインスパイアされたこの作品は、クラウドファンディングを通じて資金を調達し、ゲストミュージシャンとのコラボレーションで多様な楽器とポリフォニックな音楽性を特徴とする。

2018年の1stアルバム『Go East』に収録の「Go East Go Home」

また、バンドはロシアのプーチン大統領によるウクライナへの軍事侵攻を強く非難し、ウクライナ国民とロシア反体制派への連帯を表明している。2022年2月28日には、バンドの売上の100%をブラウンシュヴァイクにある自由ウクライナ協会(Freie Ukraine eV)に寄付することを発表した

2018年の1stアルバム『Go East』に収録の「1-7 Oy!」

Batiar Gang :
Lea – voice
Katti – accordion, voice
Stefan – accordion, synthesizer, guitar, voice
Alex – guitar, bass, drums, percussions, shouts
Marc – bass, voice
Josi – trumpet, melodica
Micha – trumpet, flugelhorn, tenor horn
Max – trumpet
Matze – clarinet, baritone saxophone
Tony – alto saxophone
Manu – trombone, helicon
Seppl – drums, percussion

Guests :
Tobi Griessbach – bouzouki (1, 11)
Nik Thäle – percussion (1, 3, 5, 11)
Fabienne Vogel – voice (7)
‘King’ Naat Veliov – trumpet (8)
Johannes Kitzka – percussion (9)

関連記事

Batiar Gang - Spice Express
Follow Música Terra