禅の精神と呼応する夫婦デュオ、ヘナート・モタ&パトリシア・ロバト 魂の安寧を導く新作

Renato Motha e Patricia Lobato - Sou do tamanho do que vejo

精神的な故郷としての音楽を目指すミナスの夫婦デュオ新譜

あのうんざりするような商業主義があらゆる音楽を食い尽くそうとする時代にあって、ブラジル・ミナスの夫婦デュオであるヘナート・モタ(Renato Motha)パトリシア・ロバト(Patricia Lobato)は、もう20年以上のあいだ、商業主義からもっとも遠いところで彼らの興味の赴くままにナチュラルに純真に音楽による表現を重ねてきた。2025年の新作『Qualquer coisa natural』でも、彼らはなにも変わらず、ただ純粋に詩やギターや歌を通じて豊かに生きることの悦びを表している。

今作のテーマは、二人がずっと憧憬し、人生の一種の指針としてきたポルトガルの国民的詩人フェルナンド・ペソア(Fernando Pessoa, 1888 – 1935)の異名(別人格)のひとつであるアルベルト・カエイロ (Alberto Caeiro)の詩である。ヘナート・モタとパトリシア・ロバトは初期の大作『Dois em Pessoa』(2004年)や『CAEIRO』三部作(2022年)を始め、これまでのキャリアの中でフェルナンド・ペッソアへの数多のリスペクトを表明し、自身の音楽表現の中にその詩を引用し取り入れてきた。今作はそれらを補完・拡張するアルバムと位置付けられ、二人のギターと声のほかにピアノやコントラバス、パーカッションといった楽器も加わり、より洗練された瑞々しさを見せている。

(1)「Sou do tamanho do que vejo」

アルバムに収録された13曲はいずれも丁寧なアレンジが施されており、2分前後と比較的短い演奏時間で次々と場面を変えてゆく。すべての曲はカエイロの詩が強調するシンプルさ、自然の観察、無常の美しさといった要素を体現し、そして彼らの音楽スタイルである静かなアコースティック・サウンドや瞑想的な雰囲気の中に巧みに溶け込む。

フェルナンド・ペソアの詩編を音楽へと昇華することは、彼らにとって“存在のエッセンスを祝う”ものであり、“魂の栄養源”となることだという。

(5)「Qualquer coisa natural」

Renato Motha & Patricia Lobato 略歴

ヘナート・モタパトリシア・ロバトは、ブラジル・ミナスジェライス州出身のミュージシャン・デュオ。ヘナート・モタは作曲/アレンジ/ギター/ヴォーカルを、パトリシア・ロバトはヴォーカルを主に担い、二人は長年のパートナーとして、ブラジル音楽(MPB)を基調にインドの伝統音楽やポルトガルの詩人フェルナンド・ペソアの作品を融合させた独自のスタイルを確立している。

彼らのテーマは自然のシンプルさ、普遍的な統一、精神性であり、アフロブラジル音楽と禅の要素を織り交ぜる。そのキャリアは1990年代から始まり、1999年に初アルバム『Antigas Cantigas Brasileiras』をリリース。以降、ブラジル歌曲の伝統を研究しつつ、ジャズ、クラシック、コンテンポラリーの影響を取り入れた作品を創作。2004年の『Dois em Pessoa』でフェルナンド・ペソア(ヘテロニム:Alberto Caeiro、Álvaro de Campos、Ricardo Reis, etc.)の詩を音楽化し、ブラジルや日本で高評価を得る。

2019年の『Amrit』や2024年の『Madhu』ではヒンドゥー・マントラをテーマに、内面的な平和を探求。さらに2022年にはフェルナンド・ペソアの最も知られた異名であるアルベルト・カエイロをテーマとした三部作『CAEIRO』をリリースした。

Renato Motha – guitar, vocal
Patricia Lobato – vocal

Abel Borges – percussion
Marco Cresci – clarinet
Rossini Parucci – contrabass
Rodrigo Quintela – acoustic bass
Tiago Costa – piano

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