メラル・ポラト、女性や少数派の内面的変革を促す新作
クルドをルーツにもつオランダのシンガーソングライター、メラル・ポラト(Meral Polat)の2025年作 『Meydan』は、彼女のルーツであるアナトリアとメソポタミアの音楽や、イスラム教の少数派であるアレヴィー派の文化的背景を基調に、トルコのサイケデリック・ロックやクルドのソウル、プロテスト・ブルース、ワールド・フュージョンを融合させた強烈な音楽体験を約束するアルバムだ。
アルバムのタイトル「Meydan」はトルコ語で「広場」を意味し、抑圧された声が集まる場所を象徴している。家父長制の抑圧的な干渉から解放され、自分の意志で生きる権利を行使する女性の声であるメラル・ポラトのヴォーカルは切実で情熱的、時には怒りが込められ、1970年代のアナドル・ロックを想起させるバンドサウンドに乗せて力強く響く。
静かに燃え上がるようなアルバムの幕開け(1)「Meydana Gel」は、「広場に来て」の意味。タイトルが象徴するように目覚めと内面的な変革を促し、自由の欠如や真理の追求をテーマに歌われる。ベース、ギター、オルガン、ドラムスで演奏されるバンドサウンドはサイケロックやアフリカン・ブルース、ジャズ、ファンクなどが入り混じり、中毒的だ。
多文化的要素は、この作品から感じられる精神的な深みの重要な要因だ。
セネガル出身の男性シンガー、モラ・シラ(Mola Sylla)が参加する(2)「Govend」は、彼のムビラ演奏や、四つ打ちのバスドラムなどがもたらす本能に訴えかける高揚感が素晴らしい。
(5)「Çiya Icaro」ではボリビア出身のマルチ奏者/歌手イベリッセ・グアルディア・フェラグッティ(Ibelisse Guardia Ferragutti)と共演。
(6)「Çenek」は女性の抵抗、優しさ、連帯を表現した曲。特に曲の終わりでは、さまざまな年齢・文化的背景の26〜28人の女性たちによるコーラスが登場し、「強い少女よ、あなたは自由だ。私たちがついているよ、小さな少女」と叫びにも似たチャントで締めくくる。アルバムに通底するテーマである抑圧に対する不屈のメッセージを強調する、象徴的な楽曲となっている。
エレクトリック・サズ奏者ムラト・エルトェル(Murat Ertel)とトランペット奏者ジャン・ウメール・ウイガン(Can Ömer Uygan)をフィーチュアした(7)「Çocuklar」のサイケデリックな混沌も印象深い。タイトルは「子供たち」の意味で、彼らに託したい今と未来についての切実な想いを歌う。
Meral Polat 略歴
メラル・ポラトは1982年2月25日、オランダ・アムステルダム生まれの女優/歌手/劇作家。両親はトルコ東部のデルスィム(現トゥンジェリ)出身のアレヴィー派のクルド人1で、父親は1980年に、母親は幼少期にオランダへ移住した。父親は詩人としても知られ、2020年に亡くなった彼の詩が彼女の音楽活動の大きな原動力となっている。
アムステルダム芸術大学で演劇と現代音楽劇を専攻し卒業後、主に女優として活躍。テレビシリーズ『De luizenmoeder』(2018-2021)、映画『Mees Kees』(2017)、『Het Geheugenspel』(2023)などで知られ、劇場公演も多数こなす。2008年にはGuido de Moor賞を受賞した。
音楽活動では、父親の詩を基にした曲作りに注力。2022年にデビューアルバム『Ez Kî Me』をメラル・ポラト・トリオ(Meral Polat Trio)名義でリリース。クルドソウル、ブルース、ジャズ、アナトリア民謡を融合させたスタイルで国際的に評価され、2025年にはセカンドアルバム『Meydan』を発表した。
- アレヴィー派のクルド人(Kurdish Alevis)…主にトルコ東部(デルシム/トゥンジェリなど)に居住するクルド人で、クルド語(クルマンジー方言やザザキ方言)を話す。イスラム教アレヴィー派全体の20-30%程度を占め、民族的・宗教的に二重の少数派。オスマン時代にさまざまな弾圧を受けたほか、現在のトルコ共和国でも多数派のスンナ派から異端視されることがある。 ↩︎