多文化の狭間で生きる葛藤を生々しく音楽表現に変換。新世代鬼才ギタリスト、ルイ・マトゥテ 5th

Louis Matute - Dolce Vita

スイスのギタリスト、ルイ・マトゥテ新譜『Dolce Vita』

2026年、最初の要注目作品のひとつだと全力で推したい。
スイス・ジュネーヴ出身のギタリスト/作曲家ルイ・マトゥテ(Louis Matute)の第5作目となるアルバム『Dolce Vita』は、自身のルーツであるホンジュラスや音楽的な最大の影響源のブラジルの文化、ジャズのアイディアや技巧、70年代風のサイケロックなどの影響が繊細に絡み合った極上のタペストリーのような傑作だ。

これまでも驚くような世界的アーティストとのコラボレーションでも話題を振りまいた彼だが、今作も重要なスパイスのようにさりげなく効いたゲストが素晴らしい。前作『Small Variations of the Previous Day』(2024年)から引き続きの参加となるフランスの新世代シンガー、ギャビ・アルトマン(Gabi Hartmann)がラストのスパニッシュ・フォルクローレ風の(10)「Lençoís de chuva」で参加しているが、それだけではない。

ブラジル音楽、とりわけボサノヴァ1やMPB2と呼ばれるジャンルのレジェンドである女性シンガーソングライター、ジョイス・モレーノ(Joyce Moreno)の(6)「O que é o amor ?」でのゲスト参加は驚きだ。ルイ・マトゥテ作曲、ジョイス作詞という共作で、ジャズ寄りのサウンドにブラジルらしい繊細で美しいメロディーラインが重なり、最高に心地よい空間を作り出す。

ジョイス・モレーノがゲスト参加する(6)「O que é o amor ?」

(3)「Não me convém」にはブラジル新世代の旗手ドラ・モレレンバウム(Dora Morelenbaum)がヴォーカルで参加。ナタン・ヴァンダンビュルク(Nathan Vandenbulcke)が叩く解像度の高いドラムスを軸に、オルガンや管楽器、ダブルベースで作られるリラックスした音空間に浸ろう。

(5)「Tegucigalpa 72」もおすすめだ。タイトルからホンジュラスの首都テグシガルパで1972年に起きた軍事クーデター3が想起されるように今作中もっともケイオスティックでサイケデリックな曲となっている。

サイケでエネルギッシュな(7)「Gringolandia」もかっこいい。タイトルは主にラテンアメリカのスペイン語圏で使われるスラングで、「Gringo」(英語話者の外国人、特にアメリカ人を指す言葉、時には軽蔑的なニュアンスを含む)の派生形。この言葉は風刺的に使われることが多く、移民や文化の文脈で外国人の視点から見た「異文化の土地」を揶揄する表現で用いられる。おそらくはホンジュラスにルーツを持つ移民であるルイ・マトゥテの目に映る文化的な衝突や疎外感をテーマにしたものであろう──彼のギターの尖った音色とフレーズが、心の叫びのように突き刺さる。

(7)「Gringolandia」

Louis Matute プロフィール

ルイ・マトゥテは1993年スイス・ジュネーヴ生まれ。父はホンジュラス出身で、10代の頃にはフラメンコギターを学んだ。
2013年、クラパレード大学の音楽賞を受賞し、ジャズの道へ。ウォルフガング・ムースピール(Wolfgang Muthspiel)やリオーネル・ルエケ(Lionel Loueke)から手解きを受け、2016年にはリオデジャネイロとサンパウロで開催されたモントルージャズフェスティバルの50周年を記念して開催されたスイス・ミーツ・ブラジル・フェスティバルにも出演した。

2018年と2020年には自身のカルテットを率いて2枚のアルバムをリリース。2022年にさらに洗練された3rdアルバム『Our Folklore』もリリースし、フランスのジャズ・アカデミーの「エビデンス」賞、スイスのZKBオーディエンス・ジャズ・アワードを受賞するなど高く評価され、現在もっとも注目すべきギタリストとしてその存在感を強めている。

Louis Matute – electric guitar
Andrew Audiger – piano, B3, keyboards
Léon Phal – tenor saxophone
Zacharie Ksyk – trumpet, trombone
Virgile Rosselet – double bass
Nathan Vandenbulcke – drums, percussions
Valentin Liechti – additional percussions
Robin Girod – additonal guitars (9)
Dora Morelenbaum – voice (3)
Joyce Moreno – voice (6)
Rico TK – voice (8)
Gabi Hartmann – voice (10)

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  1. ボサノヴァ(Bossa Nova)…1950年代後半にブラジルで生まれた“新しい感覚”を意味する名が冠せられた音楽で、ギター1本でサンバのリズムを表現する「バチーダ」や、独特の複雑なコード進行が特徴的。栄枯盛衰の激しいポピュラー音楽ジャンルにおいて、現在もその誕生当時の演奏表現が保持され、世界的に愛され続けている。 ↩︎
  2. MPB…「ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ(Música Popular Brasileira)」、つまりブラジルのポピュラー音楽という意味のジャンルだが、ボサノヴァを基盤にロック、ジャズ、サンバなど多様な要素を取り入れ1960年代後半から発展した芸術性の高い音楽を指し、社会的・政治的なテーマを含むことが多く、娯楽を目的とした「ブラジリアン・ポップ」と呼ばれるジャンルとは区別される。 ↩︎
  3. 1972年ホンジュラス・クーデター(1972 Honduran coup d’état)…1972年12月4日に発生した無血の軍事クーデター。ホンジュラス軍の首長であるオスワルド・ロペス・アレジャーノ将軍が、1971年の選挙で当選したラモン・エルネスト・クルス大統領を打倒した。クルスは右翼保守派の国民党に所属しており、軍事介入を正当化する理由として、クルスが主要政党間の権力共有合意を拒否し、政治的不安定を引き起こしたとアレジャーノ率いる軍側は主張。 ↩︎
Louis Matute - Dolce Vita
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