ギター・レジェンド、パット・メシーニが新グループで示す、ジャズの真骨頂。『Side-Eye III+』

Pat Metheny - Side-Eye III+

パット・メシーニの真骨頂を示す新譜『Side-Eye III+』

パーフェクト、なアルバムではないだろうか。
巨匠ギタリスト、パット・メシーニ(Pat Metheny)の新作『Side-Eye III+』。久々にフュージョン/ブラジル音楽寄りのアルバムで、どこまでも果てしなく広がる空間的なサウンドはライル・メイズが居たかつてのパット・メシーニ・グループを彷彿させつつ、確かに現代の音にアップデートされている。長尺の楽曲群はメシーニらしいドラマチックな展開が満載で、アクセルを緩めることなくハイウェイを疾走し、次々と景色が流れゆくかのよう。

いきなりドライヴ感溢れる(1)「In On It」でアルバムは幕を開ける

バンドは近年彼が注力している才能ある若手を起用したプロジェクト「Side-Eye III」を核とし、さまざまなゲスト・ミュージシャンが参加する。鍵盤奏者クリス・フィッシュマン(Chris Fishman)は1997年生まれで、ノウアー(Knower)やブラジルの所謂“ミナス新世代”といったシーンとも関わりが深い。また、ドラマーのジョー・ダイソン(Joe Dyson)は1989年生まれで、ニューオーリンズで早くから注目されてきたミュージシャンだ。これらのシーンとの接続は明らかで、ミナス音楽のような豊かなハーモニー、ニューオーリンズ・ジャズのようなソウルフルな感性が見事に融合。とろけるようなパット・メシーニのギターは気持ちよく空間を泳ぎ回る。

個人的に最高なのは(2)「Don’t Look Down」だ。スウィングする6/8拍子の躍動感、随所で効果的に使われ、ときに転調の導入となるブランディー・ヤンガー(Brandee Younger)のハープのグリッサンド。ところどころでレユニオンあるいはカリブの音楽を思わせるパーカッションのリズム──おそらく、キューバ出身の打楽器奏者ルイス・コンテ(Luis Conte)によるものだろう──、ギターだけでなく、ドラム、ピアノ、シンセのソロも卓越している。そして特に印象的なのはマーク・キブル(Mark Kibble)率いる10名近いシンガーのヴォーカル・アンサンブルだ。もともとはアカペラ・ゴスペルを歌うシンガーたちだが、ここでは楽器に溶け込んだようなコンテンポラリーな表現でハーモニーとリズムの一部となっている。

(2)「Don’t Look Down」

ゴスペルとパット・メシーニの音楽の完璧な融合を感じたいなら、(4)「Urban and Western」を聴くといい。クリス・フィッシュマンのブルージーなハモンド・オルガンも相まって、ソウルフルで壮大な音風景が広がる。

掴みどころのない変拍子の(5)「SE-O」はスパニッシュな雰囲気を持ちながら、やはり無国籍感が漂う面白い編曲と演奏で、バンドの高度なインタープレイを楽しめる。
フルートのような音色のシンセのソロも面白い(7)「Risk and Reward」は、フォーク音楽的な叙情、印象派的な現代ジャズ、ドラマチックな展開が映画音楽のように連なり、高いテーマ性を示す。

パット・メシーニ、71歳。その年齢を思わせないクリエイティビティと、若手音楽家との化学反応が凝縮された必聴の一枚だ。

Pat Metheny プロフィール

パット・メシーニ(「パット・メセニー」とカナ表記されることが多いが、実際の発音は「パット・メスィーニ」が近い)は、1954年8月12日にアメリカ合衆国ミズーリ州リーズ・サミットの音楽一家に生まれた世界的なジャズ・ギタリスト/作曲家。8歳でトランペットを始めたが、12歳でギターに転向し、10代半ばにはカンザスシティのトップ・ミュージシャンと共演するほどの早熟な才能を発揮した。18歳でマイアミ大学史上最年少の講師となり、19歳でバークリー音楽大学でも講師に就任するという異例の経歴を持ち、1974年にヴィブラフォン奏者ゲイリー・バートン(Gary Burton, 1943 – )のグループで国際的なデビューを飾った。

1975年に初リーダー作『Bright Size Life』を発表し、1977年にはピアニストのライル・メイズ(Lyle Mays, 1953 – 2020)らと「パット・メシーニ・グループ(Pat Metheny Group, PMG)」を結成。同グループでは、広大なアメリカの風景を想起させる独自のフォーク・ジャズやブラジル音楽の要素を取り入れたサウンドを確立し、世界的な人気を博した。彼の音楽性は極めて多才であり、アコースティック・ギターから、42弦の“ピカソ・ギター”、ギター・シンセサイザー、さらには自動演奏楽器を駆使した「オーケストリオン」まで、常に新しい技術と音響の可能性を追求し続けている。

これまでにグラミー賞を12の異なる部門で計20回受賞しており、ダウンビート誌の殿堂入りやNEAジャズ・マスターへの選出など、ジャズ界で最高級の栄誉を手にしている。2026年2月には、自身の新レーベル「Uniquity Music」から6年ぶりとなるスタジオ・アルバム『Side-Eye III+』をリリース。本作は、若手実力派を起用するプロジェクト「Side-Eye」の最新形態であり、伝統と革新を融合させた内容となっている。70代を迎えた現在も精力的に活動を続けており、年間100回を超えるコンサートを行うなど、現代音楽界における巨匠として不動の地位を築いている。

Pat Metheny – guitars, sounds, synthesizers
Chris Fishman – piano, keyboards, organ
Joe Dyson – drums
Daryl Johns – bass
Jermaine Paul – bass
Brandee Younger – harp
Luis Conte – percussion
Mark Kibble – vocals (leading vocal ensemble)

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