Mammal Hands 新作『Circadia』
UKを代表するジャズトリオ、ママール・ハンズ(Mammal Hands)。新しいドラマーとして元ゴーゴー・ペンギン(GoGo Penguin)のロブ・ターナー(Rob Turner)が加わり、さらにレーベルをゴンドワナ・レコード(Gondwana Records)からアクト(ACT)に移しての最初のアルバム『Circadia』がリリースされた。タイトルは生物の約24時間周期のリズムである「サーカディアン・リズム(概日リズム)」に由来する造語で、循環や反復するリズムの上で自由な即興を繰り広げる彼らの音楽性を象徴している。
今回のトピックはなんといっても新ドラマーのプレイだろう。2021年末にGoGo Penguinを脱退していたロブ・ターナーは、2024年のサマーツアーからママール・ハンズに同行し、ツアー中の移動車内での対話などを通じてお互いの音楽観を再確認。バンドはツアー終了後に新しいアルバムの制作に取り組むことを決めたのだという。
その効果はアルバムの冒頭、(1)「Window to Your World」でいきなり明らかにされる。“人力ドラムンベース”と称されるほど緻密にリズムを作り、初期のGoGo Penguinの人気を支えた彼らしいドラミングで、この曲は最後まで完全にロブが主役だ。後半では激しいドラムスに煽られて兄弟のピアノとサックスも燃えてくるが、即興は少なく、この冒頭曲はロブ・ターナーの“お披露目”といえる。
そこから続くアルバムの楽曲を聴けば、“UKジャズ界のギャラガー兄弟”とも言うべき兄弟であるジョーダン・スマート(Jordan Smart, sax)とニック・スマート(Nick Smart, p)との新たなパートナーとしてロブ・ターナーが選ばれたことに対して、誰も一切の疑問を挟めなくなるだろう。三人の歯車は完璧に噛み合い、現代ジャズの最前線として認識されるトリオの次のチャプターを力強く提示する。
アコースティック・ジャズの新章
もっとも驚異的なのは、──ごく一部で補助的なエレクトロニックの使用があったとしても──、ほぼほぼアコースティックの編成でアルバムを貫き通していることだ。とりわけジャズという音楽では、“個性的で新しい”表現の象徴としてエレクトロニックやエレクトリックを積極的に導入してきた。それも、もう半世紀以上も前から。にも関わらず、“現代ジャズの最先端”と呼ばれる彼らが、今作でも徹底的にこだわるのが“アコースティックの響き”だ。
それはつまり:
200本以上の弦をハンマーで叩くという精密な内部構造を持ったグランドピアノ。
19世紀にアドルフ・サックス(Antoine Joseph Adolphe Sax, 1814 – 1894)が発明した、約600もの膨大な部品で構成されたサクソフォン。
19世紀末にニューオーリンズの小太鼓奏者ディー・ディー・チャンドラー(Dee Dee Chandler)がそのきっかけを発明したとされるドラムセット。
こうした人類の叡智と技術が積み重ねてきた暁に、現在では世界的なスタンダードとなった楽器を用いてママール・ハンズの音楽は生み出されている。
(3)「Alia’s Abandon」は今作を象徴する1曲だろう。わずか4分半という時間の中で、ニック・スマートのピアノは5拍子や7拍子のリズムで何かが起こりそうな“予感”を体現し、ロブ・ターナーのドラムスが単にリズムを表現するだけの楽器に留まらずに、エンジンのような爆発力で薪に火を焚べる。ジョーダン・スマートのサックスは震えながら音楽を表現する。
緻密なコンポジション×即興のバランス感覚に優れたトリオ
ママール・ハンズ(Mammal Hands)はイギリス・ノリッジ(Norwich)出身のジャズトリオ。バンド名は「哺乳類の手」の意味。
サックスのジョーダン・スマート(Jordan Smart)、ピアノのニック・スマート(Nick Smart)の兄弟と、ドラムス/パーカッションのジェシー・バレット(Jesse Barrett)という編成で、2014年に『Animalia』でUK新世代ジャズにおける最重要レーベルであるGondwana Records からデビューした。
ベーシストがいないが、その役割はピアノの左手が担う。楽曲は緻密で重厚なコンポジションに支えられているが、計算しつくされたものだけではなく、即興の偶然性の余白も大きく残し、特にサックスのアドリブ演奏は伝統的なジャズの熱さを持つ。
2024年の春にドラマーのジェシー・バレットの離脱と、レーベル・メイトであり10年以上の親交のあった元GoGo Penguinのドラマーであるロブ・ターナー(Rob Turner)の加入が発表された。
Jordan Smart – saxophone
Nick Smart – piano
Rob Turner – drums