ウクライナ発の女性グループ、Daughters of Donbas が音楽で告発するロシアの戦争犯罪

Daughters of Donbas - Songs of Stolen Children

ドンバスの娘たちは、2万人の子どもたちの苦しみを歌う

「法」は当たり前にあるものだと私たちは考えているが、この世界には文字通りの「無法地帯」が存在する。この意味が実感を伴って分からないうちは、平和憲法に感謝をした方がよさそうだ。

強大な政治的権力を持つと、あるいは一般人であっても武器などによって力を手に入れたかのように勘違いをすると、ときどきその人は自分が神様にでもなったかのように、まるで法など最初から存在しなかったかのように振る舞い出す。口では平和が理想であるかのように語り、なぜか被害者のふりをしながら暴虐な拳をあちらこちらに振り下ろす。ここ数年で、そんな場面を何度も見るようになった。可笑しな動物たちで彩られたSNSの無限スクロールは、いつのまにか残虐な土埃に辿り着く。
そういう世の中になってしまった。

“ドンバスの娘たち”が歌で告発するロシアの戦争犯罪

ウクライナの人権団体によると、ロシア・ウクライナ戦争が始まって以来、生後4ヶ月から17歳までの約2万人の子供たちがロシア領に強制的に連れ去られ、その多くが軍事キャンプに連れて行かれたという。これは明確な国際法の違反1だ。ウクライナのドンバス2に縁のある8人の女性によるグループ、ドーターズ・オブ・ドンバス(Daughters of Donbas)『Songs of Stolen Children』は、そうしたウクライナで現実に起こっている惨状を広く国際社会に訴えるアルバムである。

グループのリーダー/ヴォーカリストで、2014年までウクライナのキーウ(キエフ)で育ち、カナダに移住したマリチカ(Marichka)は、従軍記者としてロシア・ウクライナ戦争の戦地に赴き、今作の題材となっている惨状を目の当たりにしてきた。戦地で理不尽に離散する家族たちを知ったマリチカは、人生の儚さと脆さについて実感し、音楽という手段で残酷にも引き裂かれた子供たちとその家族の苦しみを世界に伝えようと決意。ウクライナに伝わる伝統曲やオリジナルを、西洋クラシックの弦楽四重奏に伝統楽器であるバンドゥーラを交えた伴奏に乗せた歌で表現した。

(1)「Foreign Land」は「お母さん、窓の上で鳩のようにハミングしていた私の声が聞こえなかったの?」と歌うウクライナの伝統曲で、かつて外国の家庭で働くために送り出された何千人もの少女たち(多くは12歳という若さ)の声を代弁している。

(1)「Foreign Land」のMV

ロシア側がキエフ・ルーシ5以来の歴史を根拠にウクライナをロシアの一部と主張しこの戦争を正当化する一方で、彼女たちはロシア語圏とされる地域でも独自の古き良き伝統が息づいていることを発見した。マリチカ(Marichka)は、この“文化的考古学”に基づき、その成果をウェブサイト(folk-ukraine.com)にまとめ、ロシアに対するウクライナの抵抗を示している。

不思議な数字のタイトルがつけられた(7)「4.5.0.」も象徴的な1曲だ。元来「4.5.0.」は、ウクライナ軍の間で使われている「Everything is okay(すべて異常なし/状況は安定している)」を意味するコード(暗号)だという。爆撃や子どもの連れ去りといった異常だらけの戦地での日常の中で、人々がもっとも切望する平穏への祈りのような意味が込められている。

(7)「4.5.0.」のMV

(3)「Ocaryna」でフィーチュアされた19歳の少女リザ(Lisa)は、3年前に家族とともにロシアに拉致され、奇跡的に帰ってくることができたという。
グループのコンサートで彼女は舞台に上がり、日記を朗読した。
静かな勇気をもって、彼女はロシアによるマリウポリ侵攻中に耐え忍んだ恐怖の一端を観客に垣間見せた。

これはただの音楽作品ではなく、「世界から目を背けるべきではない」というマリチカからの痛切なメッセージだ。
4人の子どもの母親でもあり、戦地で多くの悲しみを見てきた彼女は、厳かにこう語る:

「世界を変えられるのは共感力だけだと私は信じています。他人の気持ちを感じなければなりません。そして、その気持ちがあれば行動を起こせる。何かができるのです。(中略)そして、音楽は聴衆との間にこの共感を生み出すための最高の手段なのです。」

www.songlines.co.uk

  1. 戦時下における子供の連れ去り(強制移送・拉致・強制移住)は、国際人道法(IHL)で厳しく禁止されている。ジュネーブ第4条約(文民保護条約)、1977年追加議定書I、国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程、および子どもの権利条約(CRC)によって、占領地からの強制的な子供の連れ去りは「戦争犯罪」として位置づけられ、例外的に認められる「避難」も極めて厳格な条件付きとされている。 ↩︎
  2. ドンバス(Donbas)…ウクライナ東南部に位置する地域。 ↩︎
  3. キエフ・ルーシ(Київська Русь)…9世紀から13世紀にかけてドニエプル川流域(現在のウクライナ、ベラルーシ、ロシアの一部)を中心に栄えた、東スラヴ人による最初の国家(キエフ大公国)。 ↩︎

Marichka – vocals, piano
Alina Kuzma – vocal, bandura
Anastasiya Voytyuk – vocal, bandura
Olga Kostianyuk – violin
Zoë Ëoz – viola
Lusine Navoyan – cello
Natalie Kemerer – double bass
Maria Gurakova – background vocal


Daughters of Donbas - Songs of Stolen Children
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