多様な音楽性を纏うSSW、Isyana Sarasvati 新譜『EKLEKTIKO』
クラシック音楽の高度な素養とポップ・ミュージックの表現力を兼ね備えた、東南アジア屈指の音楽家として知られるインドネシア出身のSSW/ピアニスト、イシャナ・サラスヴァティ(Isyana Sarasvati)が通算5枚目となるアルバム『EKLEKTIKO』をリリースした。クラシック、プログレ、ロック、ソウル、R&Bといった幅広い経験から繰り広げられる、非常にクオリティの高い作品だ。
本作は自身の音楽的・精神的な変遷を4つの章(Chapter)に分けたコンセプト・アルバムとなっている。2025年から約1年をかけて各章を順次発表し、最後に全18曲をひとつのアルバムとして完成させるという構成も特徴的で、音楽だけでなく映像や世界観を含めた総合的なアート・プロジェクトとして企画された。『エクレクティコ』というタイトルはeclectic = 折衷的・多様な要素を取り入れるという概念から着想を得たタイトルだが、彼女は「単なるジャンルの融合ではなく、さまざまな感情・経験・色彩・価値観を一つの自己表現へと統合した作品」であると説明している。
Chapter 1:LUNORA
各章には彼女自身が考案した単語が冠せられている。第1章「LUNORA」は多様性とコラボレーションをテーマとしており、ポップス、R&B、ソウル色が比較的強く、万人にとって聴きやすいアルバムの入り口だ。この章はイシャナ・サラスヴァティ自身が10代から20代前半の自分を振り返ったもので、多くの友人たちとの出会いや、異なる価値観を持つ人々と音楽を共創する喜びが綴られる。彼女は「多様性(diversity)が自分を育ててくれた」と語っており、それを裏付けるようにこの章では全曲がゲストとの共演となっている。
Chapter 2:MAMIU
第2章のキーワードは“イマジネーション、インナーチャイルド、純粋さ、遊び心”。
この章の楽曲群はエレクトロニックやJ-POPからの影響を感じさせる。彼女自身、幼い頃からアニメやカートゥーンに親しみ、その世界から大きな影響を受けてきたという。キャッチーな楽曲からは、現実の制約から自由になり、子どものような柔軟な感性を解き放つ楽しさが垣間見える。
Chapter 3:CECILIA
「セシリア」とは、イシャナ・サラスヴァティが作り上げた空想上のペルソナ(人格)とのこと。これまでの章での外向的なエネルギーから一転し、自分自身や大切な人々との関係を静かに見つめ直す内容となっている。サウンド面もピアノやストリングスが中心となり、オペラ歌手としての彼女の側面が表れるが、根底にある聴きやすさは失われない。
Chapter 4:ABADHI
第4章は、それまで登場してきた異なる人格や感情をひとつに統合し、“ありのままのイシャナ・サラスヴァティ”を受け入れることを象徴。彼女はこの章を「すべての旅路が交わり、均衡へと至る場所」と位置づけており、サウンドも彼女が近年追求してきたプログレ、バロック・メタルといった要素が明確に際立つ。特に(4-3)「my Mystery」には元メガデス(Megadeth)のギタリスト、マーティ・フリードマン(Marty Friedman)が参加し重厚なギターを披露するなど、象徴的な1曲となっている。
Isyana Sarasvati プロフィール
イシャナ・サラスヴァティは1993年インドネシア・西ジャワ州バンドン生まれのシンガーソングライター/ピアニスト。ポップスからR&B、クラシック、オペラ、プログレッシブ・ロック、メタルまでを自在に横断する、現代インドネシアを代表するマルチジャンル・アーティストとして知られる。
幼少期から音楽教育を受け、4歳でピアノとエレクトーンを始める。クラシック音楽の才能は早くから高く評価され、2008年には自作曲「Wings of Your Shadow」が世界各国から寄せられた約3,500作品の中から選出され、日本・東京で開催されたInternational Junior Original Concert(IJOC, 主催:ヤマハ)において世界トップ12作品の一つとして演奏された。また、アジア各国のエレクトーン・コンクールでも数々の優勝・入賞歴を持つ。
16歳でシンガポール政府の奨学金を獲得し、同国のNanyang Academy of Fine Arts(NAFA)で音楽演奏を学ぶ。その後、英国ロンドンのRoyal College of Musicとの提携課程へ進学し、クラシック声楽と作曲を本格的に修めた。2015年には優秀な成績で卒業し、最優秀卒業生賞も受賞している。また、学生時代にはシンガポールでオペラ歌手として舞台経験も積んだ。
2014年にメジャーデビュー。翌2015年のデビュー・アルバム『Explore!』では収録曲のすべてを自身で作詞作曲し、卓越したソングライティング能力が高く評価された。続く『Paradox』(2017年)では洗練されたポップスとR&Bを展開する一方、『LEXICON』(2019年)ではクラシック、オーケストラ、プログレッシブ・ロックを大胆に融合し、大きな音楽的転換を遂げる。さらに『ISYANA』(2023年)、『EKLEKTIKO』(2026年)では、メタルやシンフォニック・ロック、電子音楽まで取り込み、自身の芸術性をより強く打ち出した作品を発表している。