内なる精神世界を探求する、革新的ヒマラヤン・グループ The Three Seas 新譜『Antaḥkaraṇa』

The Three Seas - Antaḥkaraṇa

独自の音世界を築く西ベンガル拠点のバンド、The Three Seas

西ベンガルの伝統音楽と、オーストラリアの現代ジャズ/エレクトロニカ・シーンの気鋭たちが融合したボーダレス・アンサンブル、ザ・スリー・シーズ(The Three Seas)。彼らが結成15周年の節目にリリースした2026年のアルバム『Antaḥkaraṇa』は、バンド史上最もスピリチュアルでありながら、独特のグルーヴに満ちた作品だ。近年の“ワールド・ジャズ”や“スピリチュアル・クロスオーバー”などのシーンから見ても相当に独自性が強い作品で、単なる伝統音楽/ジャズ/エレクトロニックの融合という枠を超えた精神的な深淵を感じさせる。

タイトル「Antaḥkaraṇa」はサンスクリット語で「内なる器官」「内なる道具(inner instrument)」を意味する。これは記憶、直感、自我や魂が交わる領域を指し、意識と感覚をつなぐ見えない流れそのものだという。バンドはこれを“音楽が感情や直感を音に翻訳する道筋”と捉え、古代の詩を現代の催眠的グルーヴや即興と融合させるコンセプトにしている。

バンドのコアメンバーは、3人のベンガル人と2人のオーストラリア人。
西ベンガル州シャンティニケタン出身のリードヴォーカル兼カマク1奏者のラジュ・ダス・バウル(Raju Das Baul)は、バウル音楽の優れた表現者として知られており、彼の伝統的な歌や演奏に由来する神秘性がこのグループのひとつの要となっていることは間違いない。オーストラリア出身のバリトンサックス奏者マット・キーガン(Matt Keegan)はバンドにジャズの精神をもたらし、同じくオーストラリア出身のエレクトリック・ベース奏者ブレンダン・クラーク(Brendan Clark)はロックの音作りに寄る。

(2)「Murano」

ドトラ2やエスラジ3、アコースティック・ギターといった弦楽器を弾き、数曲でリード・ヴォーカルも務めるデオ・アシシュ・モテイ(Deo Ashis Mothey)、そして主にドラムスや打楽器、ギターも担当し、リード・ヴォーカルも務めるゴウラブ・チャッタージー(Gaurab Chatterjee)も優れた個性的音楽家だ。The Three Seas は、とにかくタレントに恵まれたバンドだ。

収録曲のほとんどはオリジナルだが、(4)「Prithibi」は“バウル・ジャズ”の開祖である作曲家ゴータム・チャトパディヤイ(Gautam Chatterjee)のカヴァー。マット・キーガンはこの曲の録音について「歴史の重みと、それを継承していく喜びを感じた」と語っている

(4)「Prithibi」

ゴウラブ・チャッタージー作曲、マット・キーガン作詞による(10)「Real World」も、印象的な1曲だ。キャッチーなこの曲では、かつて多くの音楽家が理想の社会として歌ったように、民族や文化の差異を超えて愛を分かち合う前向きな世界について歌っている。

(10)「Real World」

The Three Seas :
Raju Das Baul – lead vocal, khamak
Matt Keegan – baritone saxophone, harmonium, vocals
Deo Ashis Mothey – lead vocals, dotora, acoustic guitar, esraj
Brendan Clark – electric bass, dotora, vocals
Gaurab Chatterjee – lead vocals, drums, dupki, acoustic guitar

Additional musicians :
Dave Rodriguez – electric guitar & fx
Hilary Geddes – backing vocals (10)
Amy Curl – backing vocals (4)

  1. カマク(khamak)…バウル(baul)と呼ばれる、ベンガル地方の伝統的な吟遊詩人が用いる弦打楽器。 ↩︎
  2. ドトラ(dotora)…インド東部やバングラデシュの2〜4弦の撥弦楽器。丸みを帯びた形状と全体的な構造により、非常に共鳴性が高く、独自の音を響かせる。 ↩︎
  3. エスラジ(esraj)…ベンガル地方で用いられる擦弦楽器。インド北部ではディルルバ(Dilruba)とも呼ばれている ↩︎

The Three Seas - Antaḥkaraṇa
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