「ときどき、両生類。」アンティア・ムイーニョが歌う、ガリシアの伝統とその先にある音楽

Antía Muíño - Anfibia Por Veces

ガリシアのSSWアンティア・ムイーニョ新譜『Anfibia Por Veces』

ガリシアの伝統音楽をルーツに持ち、ジャズやブラジル音楽、イベロアメリカの音楽へと関心を広げてきたシンガーソングライター/ギタリスト、アンティア・ムイーニョ(Antía Muíño)が、2022年のデビュー作『Carta Aberta』から約4年を経て第2作目となるアルバム『Anfibia Por Veces』をリリースした。

アルバムは全10曲、約33分。彼女の歌とギターを中心に据えながら、ガリシアの伝統歌、アルゼンチンのチャカレーラ、ポルトガルの伝承歌、ジャズ、ブラスバンド、電子音響などが曲ごとに現れる豊かな構成。チェロとのデュオがあれば、声とギターだけの弾き語りもあり、ローズピアノにダブルベース、ドラムスを配したジャズ寄りのアンサンブルもあるなど前作以上に扱う音楽の範囲は広い。

タイトルの「Anfibia」は「両生的な/両生類の」という意味を持つ言葉だ。アンティア・ムイーニョはこの言葉を、雨や湿気、水に囲まれた故郷ガリシアの環境と、自身のなかにある複数の性質に重ねている。内省的で静かな自分と、外向的で祝祭を好む自分という二面性は、今作の音楽にもそのまま持ち込まれた。

冒頭の(1)「A Beleza」は、その全体像への穏やかな入口となっている。アコースティック・ギター、ダブルベース、パーカッション、そして複数の声による簡素な編成で、身近な風景のなかにある「美」を歌う。続くタイトル曲(2)「Anfibia Por Veces」ではドラムスやパーカッションにマリンバが加わり、ガリシアの雨や水、緑といったイメージから、自分自身と土地との関係を描いていく。

(1)「A Beleza」

(3)「FiGA」ではポルトガルの伝承歌をガリシア語へ自由に翻案し、アンティア・ムイーニョのギターとミゲル・アリバス(Miguel Arribas)のテナーサックスによる親密なデュオへ落とし込んだ。(4)「Cien Olivos」は一転してムイーニョ一人による弾き語り。
編成を頻繁に変えながらも、どの曲でも彼女の声と旋律が前面に置かれている。

アルバム中盤で大きく景色を変えるのが(5)「Amor Fugaz」だ。ガリシアの女性ブラスバンド、ブラシカ・ラパ(Brassica Rapa)を迎え、サックス、トランペット、フレンチホルン、トロンボーン、バリトンサックス、スネア、バスドラムという編成でパソドブレを演奏する。続く(6)「Umbral」はマルガリダ・マリーニョ(Margarida Mariño)のチェロとアンティア・ムイーニョのギターと歌だけで構成され、アルバムのなかでももっとも室内楽的な側面を見せる。

ガリシアの伝統音楽とのつながりが最も直接的に表れるのは(7)「Augha Desa Fonte」。ガリシアの農村の伝統音楽を現代に伝える女性グループ、リライナ(Lilaina)のアレハンドラ・モンテロ(Alejandra Montero)とアンドレア・モンテロ(Andrea Montero)姉妹が参加し、パンデレータや手拍子、さらには鍬まで打楽器として用いており興味深い。

(7)「Augha Desa Fonte」

「時にはうまくいかない」「諦めたくなる」といった心理をかなり率直に扱いながら、それでも「mientras sueño y vivo = 夢を見て、生きている間」という言葉へ戻ってくる印象的な曲(8)「Mientras Sueño y Vivo」を挟み、(9)「Eu Canto」ではさらに大西洋を渡る。

ここで参照されるのはアルゼンチンの民俗舞踊音楽チャカレーラ。ガリシアの音楽だけを自身のルーツとして固定するのではなく、ポルトガルやラテンアメリカを含む広い文化圏の「歌」を、自身の音楽の中に吸収している。

(8)「Mientras Sueño y Vivo」

そして最後の(10)「Amodinho」では、ローズ、ダブルベース、ドラムスを伴ったジャズ寄りのアンサンブルへ。プロデュースをムイーニョと共同で手掛けたヘヴィ(Hevi)も小物打楽器で参加し、それまでアルバムの各所に散らばっていた要素がここでひとつのバンド・サウンドとしてまとまるような感覚を覚える。

今作『Anfibia Por Veces』には、ひとつのジャンルにアルバム全体を収めようとする意識がほとんど感じられない。ガリシアの伝承歌からパソドブレ、チャカレーラ、ジャズまでを行き来し、使用する言語や編成も変わる。それでも10曲がばらばらに聞こえないのは、ムイーニョがそれらを「ジャンル」として並べるのではなく、自分が歌うための材料として扱っているからだろう。

その意味で、「両生的」というアルバムタイトルは実によくできている。伝統音楽の側にも現代のポピュラー音楽の側にも完全に身を置かず、ガリシアに根を持ちながらポルトガルやラテンアメリカへも自然に手を伸ばす。アコースティックな小編成と現代的なプロダクションの間も自由に往来する。

どこかひとつを選ぶのではなく、その間を自在に行き来すること。それが『Anfibia Por Veces』という作品の本質であり、現在のアンティア・ムイーニョの音楽をよく表している。

Antía Muíño プロフィール

アンティア・ムイーニョは、1992年スペイン・ガリシア州出身のシンガーソングライター/ギタリスト。ア・コルーニャに生まれ、サンティアゴ・デ・コンポステーラ近郊のオ・ミジャドイロで育つ。幼少期からガリシアの伝統音楽に親しみ、10代まで歌とパンデレータのグループで活動。その一方でクラシック・ギターを学び、バスク地方の高等音楽院ムシケネ(Musikene)でギター演奏を専攻した。

ガリシアの伝統音楽を基盤としながら、ジャズ、ボサノヴァ、イベロアメリカのポピュラー音楽、シンガーソングライターの音楽などを横断する作風を持つ。2022年にデビュー・アルバム『Carta Aberta』を発表し、同年のPremios Martín Códax da Música Galegaで新人アーティスト賞を受賞。2024年にはガリシアを代表するジャズ・ピアニスト、アベ・ラバデ(Abe Rábade)との共同作『Vente vindo / Eu en ti』を発表したほか、バイウカ(Baiuca)のライヴにも参加している。2026年、2作目のアルバム『Anfibia Por Veces』を発表。

Antía Muíño – vocals, guitar, percussion
Miguel Arribas – backing vocals (1), tenor saxophone (3, 5), flute (8), saxophone (9), handclaps, seeds (9), Rhodes (10)
Ton Risco – percussion (1, 2), backing vocals (1), drums (2, 10), marimba (2)
Yudit Almeida – double bass (1, 10), backing vocals (1)
Margarida Mariño – cello (6)
Alejandra Montero – percussion, vocals (7)
Andrea Montero – percussion, vocals (7)
Brian Aching – guitar, handclaps, seeds (9)
Andrea Pérez – alto saxophone (5)
María Prado López – trumpet (5)
Maritza Ruan – French horn (5)
Xiana Naval – trombone (5)
Chus López – baritone saxophone (5)
Julia Sánchez-Biezma – snare drum (5)
Tania Caamaño – bass drum, backing vocals (5)
Hevi – small percussion (10)

Antía Muíño - Anfibia Por Veces
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