この一週間は、ジャズの歴史に残るような新譜が重なりました。キース・ジャレットの最後のヨーロッパ・ソロ・ツアーを締めくくるローマ公演、60年以上にわたって語り継がれてきたコルトレーンの幻のテープ、藤井郷子の5ヶ月連続オーケストラ・シリーズ最終章。そこにハバナで録音されたアミナ・フィガロヴァ、ラテンの香りをまとうダグ・ビーヴァースとマイケル・ジルバー、若い声のタイリーク・マクドールとゾハー&アダムまで。ムジカテーハのPLAYGROUND作品『My Ten』のポスターにまとめましたので、まずはジャケットを眺めながら、各盤を少しずつ聴いてみてください。
→ 2026年10月31日〜11月6日 新着おすすめ │ My Ten
- 1 はじめに
- 2 10枚の紹介
- 2.1 キース・ジャレット『Roma (Live)』
- 2.2 ジョン・コルトレーン『The Tiberi Tapes (Live)』
- 2.3 藤井郷子オーケストラ東京『Kappa Ondo』
- 2.4 マシュー・シップ&ウィリアム・パーカー『A Whole System Of』
- 2.5 アミナ・フィガロヴァ『Flying High Above』
- 2.6 ダグ・ビーヴァース&マイケル・ジルバー『Another Sunrise』
- 2.7 タイリーク・マクドール『CHROMA』
- 2.8 ゾハー&アダム『Osmosis』
- 2.9 ダリウス・ブルーベック・カルテット『Live Again』
- 2.10 ピーター・ナイト&TL;DR『Phosphenes』
- 3 おわりに
はじめに
一週間で世界から届く新譜は膨大ですが、その中から「これは紹介したい」と思えた盤を10枚選び、『My Ten』でポスターにしました。並び順はポスターの体裁のためのもので、優劣ではありません。ローマ、ニューヨーク、東京、ハバナ、メルボルン。地図を広げるように、1枚ずつ辿っていきます。
10枚の紹介
キース・ジャレット『Roma (Live)』
ピアニスト、キース・ジャレット(Keith Jarrett)の2016年7月12日、ローマのオーディトリアム・パルコ・デッラ・ムジカでのソロ・ピアノ公演。ブダペスト、ボルドー、ウィーン、ミュンヘンと続いた最後のヨーロッパ・ソロ・ツアーの5都市を締めくくる一夜で、ツアーの記録がこれでようやく完結します。ECMらしい静謐なジャケットの奥に、ひと音ひと音を確かめるように紡がれる即興が広がります。(11月6日発売/ECM)
ジョン・コルトレーン『The Tiberi Tapes (Live)』
ジョン・コルトレーン(John Coltrane)のステージを、サックス奏者のフランク・ティベリ(Frank Tiberi)が1960年、ポータブルのテープレコーダーを手にニューヨークとフィラデルフィアのクラブへ通って追い続けた記録。60年以上にわたって噂だけが語り継がれてきた幻のテープが、ついに日の目を見ました。「ジャイアント・ステップス」の異なるテンポによる2つの演奏をはじめ、転換期のコルトレーンが目の前で音楽を探し続ける姿が、そのままの音で残されています。生誕100年の年に届いた、歴史的な発掘です。(11月6日発売/Impulse!)
藤井郷子オーケストラ東京『Kappa Ondo』
2026年7月から5ヶ月連続で5つのオーケストラを描いてきた藤井郷子(Satoko Fujii)のシリーズ最終章。東京のオーケストラによる今作は、トランペット奏者の田村夏樹(Natsuki Tamura)の父で、教育者・芸術家として障害のある子どもたちの表現を支えた田村一二(Ichiji Tamura)への追悼です。中心となるのは、田村一二が書いた歌「Kappa Ondo」を藤井がオーケストラ用に編んだ表題曲。自由な即興と人への信頼が結びついた、温かい締めくくりです。(11月6日発売/Libra Records)
マシュー・シップ&ウィリアム・パーカー『A Whole System Of』
ピアノのマシュー・シップ(Matthew Shipp)とベースのウィリアム・パーカー(William Parker)。40年にわたって共演を重ねてきた2人による、4作目のデュオ・アルバムです。デヴィッド・S・ウェア(David S. Ware)・カルテットでも知られる盟友同士の対話は、打楽器のようなピアノと地鳴りのようなベースが絡み合い、予測のつかない生態系のような音楽を生み出します。同じ日には、1994年の初デュオ作『Zo』の再発も届いています。(11月6日発売/TAO Forms)
アミナ・フィガロヴァ『Flying High Above』
ピアニストで作曲家のアミナ・フィガロヴァ(Amina Figarova)の通算20作目。キューバへの長年の憧れをかなえ、ハバナで現地の音楽家たちと録音しました。ニューヨークのバンドとハバナの響きが交わる、陽光に満ちた一枚です。トロイ・ロバーツ(Troy Roberts)、ヤスシ・ナカムラ(Yasushi Nakamura)、ルディ・ロイストン(Rudy Royston)らが参加しています。(11月6日発売/AmFi Records)
ダグ・ビーヴァース&マイケル・ジルバー『Another Sunrise』
グラミー受賞トロンボーン奏者のダグ・ビーヴァース(Doug Beavers)と、サックス奏者のマイケル・ジルバー(Michael Zilber)によるセクステット。2人が4曲ずつを持ち寄り、ギターのポール・ボレンバック(Paul Bollenback)、ピアノのマイク・ホロバー(Mike Holober)らとともに録音しました。ビーヴァースがエディ・パルミエリ(Eddie Palmieri)との活動で培ったラテンの血が、音楽の芯に流れています。(11月6日発売/Circle 9 Records)
タイリーク・マクドール『CHROMA』
ニューヨークの若手ヴォーカリスト、タイリーク・マクドール(Tyreek McDole)の2作目。プロデュースにトランペット奏者のテオ・クローカー(Theo Croker)を迎え、ニーナ・シモン(Nina Simone)やケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)、アンドレ3000(Andre 3000)の曲を自分たちの言葉に編み直しながら、オリジナルと並べた一枚です。声の色を重ねるようにして作られた、タイトルの「CHROMA」(色彩)にふさわしい作品です。(11月6日発売/Artwork)
ゾハー&アダム『Osmosis』
兄弟デュオ、ゾハー&アダム(Zohar & Adam)のデビュー・アルバム。ジャズ、ヒップホップ、インディー、エレクトロニックを分け隔てなく行き来する音楽に、レーベルメイトのクリスチャン・マクブライド(Christian McBride)やスティーヴ・ウィルソン(Steve Wilson)、ラッパーのノリーが参加しています。モントリオール・ジャズ・フェスティバルでマーカス・ミラー(Marcus Miller)の前座を務めた注目の若手です。(11月6日発売/Mack Avenue)
ダリウス・ブルーベック・カルテット『Live Again』
デイヴ・ブルーベック(Dave Brubeck)の長男で、ピアニストのダリウス・ブルーベック(Darius Brubeck)が率いるカルテット。結成20年を迎えたバンドが、イタリア・パレルモでの7公演から選んだライヴ録音です。テナーサックスのデイヴ・オヒギンズ(Dave O’Higgins)、ベースのマット・リドリー(Matt Ridley)、ドラムのウェスリー・ギベンズ(Wesley Gibbens)とともに、長年連れ添った者同士にしか出せない呼吸を聴かせます。(11月6日発売)
ピーター・ナイト&TL;DR『Phosphenes』
オーストラリアのトランペット奏者、ピーター・ナイト(Peter Knight)とカルテットTL;DRの2作目。現代ジャズとアンビエント、ミニマリズムのあいだで、即興を技巧の誇示ではなく、思考のための空間として捉えた音楽です。タイトルの「フォスフェン」は、目を閉じたときに見える光の形のこと。目を閉じて聴きたくなる一枚です。(11月6日発売/Earshift Music)
おわりに
気になるジャケットがありましたら、上のポスターでそのまま試聴できます。そして、あなたの好きな10枚も、『My Ten』でポスターにしてみてください。来週はどんな音楽と出会えるでしょうか。