伝承の旋律に自身のアイデンティティを重ねる D!ma Loginov デビュー作
カザフスタン出身の若手トランペット奏者、ディーマ・ロギノフ(D!ma Loginov)が、オランダのChallenge Recordsからデビュー・アルバム『First Impression』を発表した。現在オランダ・アムステルダムを拠点に活動する彼が、自身の音楽的なルーツと現在の表現を結びつけた作品で、モダンジャズを基調にカザフスタンの民謡やソウルの要素を取り込み、記憶、移住、アイデンティティといった個人的なテーマを描いている。
アルバムに参加するのはいずれもアムステルダムで出会った多国籍のミュージシャンたちで、完成までに4年を費やしたという緊密なアンサンブルも素晴らしい。
本作の中でも彼の出自を象徴する楽曲が、カザフスタンで広く親しまれている伝統的な民謡をモーダル・ジャズの手法で再構成した(2)「Yapurai」だ。旋律の持つ叙情性を生かしながら、トランペットを中心としたアンサンブルが自由な即興を展開。古くから受け継がれてきた故郷の歌に、現代のジャズ奏者としての視点を重ねている。
この「Yapurai」は、カザフスタンで古くから広く親しまれてきた民謡だ。1925年に音楽研究家アレクサンドル・ザタエヴィチ(Alexander Zatayevich, 1869 – 1936)が出版した民族音楽集『カザフ人民の1000の歌』には、現在の曲につながる旋律が異なる形で2つ収録されている。今日よく知られる歌詞は、詩人・歌手のイサ・バイザコフ(Isa Baizakov, 1900 – 1946)が古い旋律に新たな詩をつけたものとされ、湖や風景の美しさに愛する人への思いを重ねた叙情的な内容。以来多くの歌手に歌い継がれ、45を超える編曲も生まれているという。ロシアの作曲家ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov, 1873 – 1943)の『交響的舞曲』との旋律上の類似性も研究されている。
カザフスタンで生まれ育ち、オランダで音楽を学んだディーマ・ロギノフにとって、「Yapurai」は自身の出自や記憶とも結びつく楽曲なのだろう。これはアイデンティティの探求であり、故郷の音楽を新たな表現で蘇らせる試みでもある。
アルバムには、他にカザフスタンの草原を想起させる(1)「Steppe Sons」、トランペット一本でアントニオ・カルロス・ジョビンの(5)「Luiza」を奏でる親密な小品、スペインとスコットランドにルーツをヴォーカリスト、カロリーナ・ジェメル(Carolina Gemmell)を迎えたタイトル曲(8)「First Impression」など、異なる表情を持つ全8曲を収録。カザフスタンの伝統音楽を過去の遺産として扱うのではなく、現在の自分を形作る音楽として表現する若手トランペット奏者の出発点となる一枚となっている。
D!ma Loginov(ディーマ・ロギノフ)プロフィール
1999〜2000年頃生まれとされる、カザフスタン・アルマトイ出身のトランペット奏者、作曲家。幼少期から音楽に親しみ、当初はピアノを学んだ後、トランペットへ転向。ジャズへの関心を深め、クラシックとジャズの両方を学んだ。オランダへ渡り、アムステルダム音楽院(Conservatorium van Amsterdam)で研鑽を積む。
2022年には、アムステルダムで国際色豊かなメンバーによるジャズ・グループFive/Seven Elementsを結成。カザフスタンの民謡や自身のオリジナル曲を取り上げながら、民族音楽と現代ジャズを結びつけた表現を追求している。フランク・マッコム(Frank McComb)、ディック・オーツ(Dick Oatts)、マールテン・ファン・デン・フリンテン(Maarten van den Grinten)らとも共演。2026年4月、Challenge Recordsから初のリーダー・アルバム『First Impression』を発表した。
D!ma Loginov – trumpet (1, 2, 4, 5, 6, 8)
Oleg Tkachenko – tenor saxophone (1, 2, 4, 6, 8)
Alexandros Adam – guitar (1, 2, 3, 4, 6, 8)
Saba Okujava – piano (1, 2, 4, 6, 7, 8)
Philip Lewin – double bass (1, 2, 4, 6, 8)
Kasparas Petkus – drums (1, 2, 4, 6, 8)
Carolina Gemmell – vocals (8)