ヴァイオリンとピアノだけ。この上なく尊く美しい音楽
ロシアの若き女性ジャズ・ヴァイオリン奏者/作曲家、アンナ・ラキタ(Anna Rakita)とアルメニア出身の男性ピアニスト/作曲家、ヴァルダン・オヴセピアン(Vardan Ovsepian)のデュオによる共作アルバム『Every Tomorrow』 は、二人によって精緻に作曲された美しい楽曲と、ヴァイオリンとピアノというクラシック音楽をイメージさせる楽器による自由なインプロヴィゼーション(即興演奏)がこの上なく尊く美しい作品だ。
多くのジャズファンが(多分)待ちわびたヴァルダン・オヴセピアン諸作品のサブスクリプション解禁に伴って再び注目されたこの2019年のアルバム。気になるのはやはりこの初耳のヴァイオリン奏者の名前だと思う。
アンナ・ラキタ。ロシアから生まれ出た新世代ジャズ・ヴァイオリン奏者
ブラジルの歌姫タチアナ・パーハとのデュオ「Fractal Limit」などでの活動で日本でも名高いピアニストであるヴァルダン・オヴセピアンのピアノに今回絡むのは、ロシアのヴァイオリン奏者、アンナ・ラキタ。おそらく日本ではほぼ無名の演奏家だと思うが、彼女のプロフィールも演奏家としての実力も驚くべきものがある。
アンナ・ラキタは作曲家/ピアニストの父ヴァギフ・ゼイナロフ(Vagif Zeinalov)の指導のもと5歳からヴァイオリンを始めた。13歳でジャズに傾倒し、トルクメニスタンの伝説的ジャズロックバンド、Guneshのキーボード奏者のオレグ・コロレフ(Oleg Korolev)に師事し音楽理論や即興を学んだ。
プログレファンにはその名をよく知られる同バンドの超絶ドラマー、リシャド・シャフィ(Rishad Shafi)のステージでも演奏するなど経験を積み、その後はフランスの名ヴァイオリニスト、ジャン=リュック・ポンティ(Jean-Luc Ponty)にも師事している。
2019年には自身のプロジェクト“Rakita Project”(そのまんまやな…)でのシングル『Freedom Mind』も発表しており、これがまた現代ジャズファンのツボの中心を見事に射抜いてきた感じで震える…。MVも公開されているので、ぜひ観てほしい。アンナのヴァイオリンの美しさは勿論、ヴォーカルをとるヴェロニカ・シュタルダ(Veronika Stalder)の美声、2019年のハービー・ハンコック・コンペティション(旧セロニアス・モンク・コンペティション)のギター部門で優勝したエフゲニー・ポボシー(Evgeny Pobozhiy)などタレントを揃えたバンドで、フルアルバムの発表を心待ちにしたい素晴らしい演奏だ。