バルカン音楽のカリスマ、ゴラン・ブレゴヴィッチが放つロマ賛歌

Goran Bregovic - Champagne for Gypsies

ジプシー(ロマ)への祝杯『Champagne for Gypsies』

エミール・クストリッツァ監督の映画作品の音楽でおなじみのサラエヴォ出身の音楽家ゴラン・ブレゴヴィッチ(Goran Bregovic)のソロアルバム『Champagne for Gypsies』(2012年)は、世界中に散らばったロマ(ジプシー)系の音楽家たちを一同に集めた豪華でエネルギッシュな作品だ。

ジプシー音楽を愛するゴラン・ブレゴヴィッチらしいブラス中心のサウンドが轟く。聴けば全身の血が沸き立ち、気持ちの昂りを抑えずにはいられなくなる音楽。粗野と洗練の好対照が同居する奇妙な時間が全体を支配する。

ロマ系のゲスト歌手が多数参加

(1)「Presidente」では1980年代以降のワールドミュージックブームを牽引したフランスのバンド、ジプシーキングス(The Gipsy Kings)が熱い(暑苦しい?)演奏と歌を披露。

(3)「Be That Man」ではウクライナ難民として米国に移住したジプシーパンクバンド、ゴーゴル・ボールデロ(Gogol Bordello)のフロントマンであるユージーン・フッツ(Eugene Hütz)がしゃがれ声で咆哮する。ユージーン・フッツは(7)「Quantum Utopia」でも魅力的なヴォーカルを聴かせており、ゴーゴル・ボールデロでの印象とはまた違った野性を剥き出しにする。

「さらば恋人よ」の邦題でも知られるイタリア・パルチザンの歌曲のカヴァー(6)「Bella Ciao」(ライヴ録音)は本作のハイライト。歴史的に反ファシストの民衆の歌として世界中で愛されているこの歌を、ゴラン・ブレゴヴィッチは自身のバンド The Wedding and Funeral Orchestra とともに演奏。聴衆の大合唱とともに熱気に包まれる様は圧巻だ。

(6)「Bella Ciao(さらば恋人よ)」のライヴ動画。

(5)「Ciribirella Ciribirella」、(9)「Fertig」にはスイスで活躍するロマ出身のSSW、シュテファン・アイヒャー(Stephan Eicher)が参加。
(11)「Omule」に参加のフローリン・サラム(Florin Salam)はルーマニア出身で、“マネレ”と呼ばれるロマの人々の歌をうたう歌手だ。

(2)「On a Leash」(12)「Champagne for Gypsies」の2曲で可憐な歌声を聴かせるセリーナ・オリーリ(Selina O’Leary)はアイルランドのロマ系歌手。全体的にむさ苦しい本作に華を添える。

Gogol Bordello のユージーン・フッツ(Eugene Hütz)がゲスト参加した(3)「Be That Man」

バルカン音楽のカリスマ、ゴラン・ブレゴヴィッチ

ゴラン・ブレゴヴィッチ(Goran Bregovic, 1950年 -)は間違いなく世界的に最も成功したバルカン音楽の作曲家/プロデューサーだ。

旧ユーゴスラビア、現在のボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエヴォに生まれ、16歳の頃に結成したロックバンド、ビィェロ・ドゥグメ(Bijelo Dugme)は旧ユーゴスラビアで大成功を収めた。バルカン半島の民族音楽やロマの音楽に強く影響された作風で知られ、同郷の映画監督エミール・クストリッツァ(Emir Kusturica)の作品『アンダーグラウンド』(1995年)や『ジプシーのとき』(1989年)などで印象的な音楽を多数制作し、音楽面でも無二の強烈な印象を与える同監督作品の評価に大きな影響をもたらしている。

映画『ジプシーのとき』の映像と、ゴラン・ブレゴヴィッチがアレンジしたロマの伝統歌「Ederlezi」
Goran Bregovic - Champagne for Gypsies
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