“クラシック界のロックスター” 奇想のヴァイオリニスト、ジャンルを超越する快作

Ara Malikian - Royal Garage

アラ・マリキアン、最新2枚組『Royal Garage』

“クラシック界のロックスター”の異名は伊達じゃない。

アラ・マリキアン(Ara Malikian)。レバノンの首都ベイルート生まれのアルメニア系。現在はスペインを活動の拠点にしている異色のヴァイオリニスト。

ボサボサの髪、伸ばしっぱなしの髭。ステージでは舞い踊りながら派手なパフォーマンス。
演奏家として活動を始めた当初は、燕尾服を着た“普通の”クラシック・ヴァイオリン奏者としてステージに立っていたそうだが、いつしか観客との一体感を求めるうちに現在のスタイルに落ち着いていったのだという。

そんなアラ・マリキアンが2枚組の大ボリュームで送る2019年作『Royal Garage』は、もはやクラシックとは名ばかり、ロックにジャズにヒップホップにフラメンコ、果てはメタルまで、ジャンルを超越し自由闊達に混ざり合う演奏が満喫できる楽しすぎる作品だ。

(1-4)「Watif」のMV。
アラ・マリキアン自身がリードヴォーカルも担当する。

曲ごとに異なる編成で演奏される多彩が曲調が魅力的。ゲストも多彩で、注目すべきところだと(1-4)「Watif」など数曲でスペインの歌手/ギタリスト/ドラマーのトニー・カルモナ(Tony Carmona)、(1-5)「El Todo」と(2-1)「Concerto Grosso」でスペインのラッパーKase.O、(1-8)「Imen Dunis」でフラメンコギターのバハグニ(Vahagni)、(2-7)「The Rough Dog」にはシステム・オブ・ア・ダウン(System of a Down)のサージ・タンキアン(Serj Tankian)など。

しかし、これだけ多彩で個性的なゲストを迎えていながらも、どの曲でもアラ・マリキアンのヴァイオリンはサウンドの中心にいるのが凄い。圧倒的存在感、そして圧倒的無敵感。まさにカリスマ。

その(乱暴な言い方をすれば)粗野な風貌とは裏腹に、彼のヴァイオリン演奏は非常に繊細な表現力を持つ。ヴァイオリンのあらゆる奏法を自在に操り奏でられる音色は目を瞑って聴けばとてつもなく美しい。

(1-6)「Kastorium Ragga」のMV。
キャッチーな曲調で、トニー・カルモナ(Tony Carmona)のギターも印象的だ。

アラ・マリキアン(Ara Malikian)は1968年生まれ。父の手ほどきで幼少期からヴァイオリンを始め、レバノンの内戦の混乱で長期間をシェルターで過ごさなければならなかった困難な時期があったにも関わらず、その才能を見事に開花させた。
12歳で初めてのコンサートを行い、14歳で著名な指揮者ハンズ・ハーバート・ヨリス(Hans Herbert Jöris)に見込まれドイツ政府からの奨学金を得て最年少の学生としてハノーファー音楽演劇大学に学んだ。

若い頃には数々の国際コンクールで優勝し、以降も複数のプロジェクトを率いジャンルの境目なく活躍している。クラシック・エンターテイメント集団パギャグニーニ(Pagagnini)のリーダーとして来日経験も。

Ara Malikian - Royal Garage
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