相次いで両親を失ったベベウ・ジルベルト、喪失からの“今”を描く6年ぶり新譜

Bebel Gilberto - Agora

ベベウ・ジルベルト、大きな変化を経た6年ぶり新譜『Agora』

ボサノヴァの創始者ジョアン・ジルベルト(João Gilberto)を父に、稀代の歌手ミウシャ(Miúcha)を母に持ち、MPB(ブラジルのポピュラー音楽)で長年活躍する歌手ベベウ・ジルベルト(Bebel Gilberto)の新譜『Agora』は彼女らしい、夏にぴったりのチルアウト感が満載の作品だ。

タイトル「Agora」はポルトガル語で「今」を意味する。彼女の前作『Tudo』から実に6年ぶりの新作。

この6年の間に、彼女は母ミウシャを2018年の年末に、父ジョアン・ジルベルトを2019年の6月に相次いで失うという経験をした。この作品には、そうした困難な時期を乗り越えた彼女が表現する「今」が詰まっている。

ベベル・ジルベルトが作曲した(10)「O Que Nao Foi Dito(言わなかったこと)」はついぞ偉大な両親に聴かれることはなかったが、彼女は歌詞の中で“言わなかったこと、それはもう書かれています。私にあなたの世話をさせてください”──そんな形で両親への感謝を捧げている。

(7)「Deixa」のMV。曲名の意味は“出発, (今の場所から)去る”。
(6)「Na Cara」では個性派サンビスタ、マルチナリア(Mart’nália)と共演。

両親の喪失という大きな経験を経て発表された本作は、彼女にとって大きな意味を持つ。ポルトガル語の歌詞を解せず、このサウンドだけを聴けばチル感たっぷりの家で流すにもドライブで聴くにも最高な作品だが、そうした彼女の個人的な背景を知れば単に“良いアルバム”では済ませられなくなる。
何度も何度も繰り返し聴けば、この作品に込められたベベウ・ジルベルトの想いを自分なりに感じとれるのかも知れない。

単純に言えることは、彼女の大ヒット作『Tanto Tempo』(2000年)の独特なサウンドや雰囲気が好きな方は、この作品も絶対気に入るはず、ということ。

このコロナ禍において、彼女もまたステイホームを余儀なくされているが、「ジョアン・ジルベルトの娘だから、家にいることは苦じゃないわ」と語る。

なんとも的確なユーモアのセンスだと思う。

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