北米、南米、中東、欧州、日本…地域を超え最高の女性奏者が結集
現代ジャズで最も高い評価を得ている7人の女性アーティストたちが結集したスーパーグループ、アルテミス(ARTEMIS)がブルーノート・レコーズからデビューした。
2017年にピアニストのロニー・ロスネス(Renee Rosnes)の呼びかけによって集められたメンバーはそれぞれがソロ・プロジェクトで活躍する個性的なキャラクターで、出身も米国、カナダ、フランス、チリ、イスラエル、そして日本と多様だ。
グループ名はギリシャ神話に登場する狩猟・貞潔の女神に因む。その性格は、非常に気が強く男勝りだったと言われている。
ブルーノートの社長・ドン・ウォズも彼女らのコンサートを体験し惚れ込んだというARTEMISのデビュー作『Artemis』(2020年)には、メンバーそれぞれの持ち曲に加え、レノン&マッカートニーの(3)「The Fool On The Hill」、スティーヴィー・ワンダーの(5)「If It’s Magic」、マキシン・サリヴァン(Maxine Sullivan)の歌唱で知られる(8)「Cry, Buttercup, Cry」、さらにリー・モーガンの(9)「The Sidewinder」など往年の名曲カヴァーも収録されている。
そして、メンバーが持ち寄ったオリジナル曲もそれぞれ個性が出ていて良い。
(1)「Goddess Of The Hunt」は個性派ドラマー、アリソン・ミラー作曲。冒頭、ユニークなリズムの上で3管を活かしたダイナミックなアレンジが踊る。展開もドラマティックで素晴らしい。
(2)「Frida」はチリ出身のメリッサ・アルダナ作曲で、曲名はもちろん、メキシコが誇る女性画家フリーダ・カーロだ。メリッサ・アルダナはグラミー賞候補にもなった2019年作『Visions』でも、その中心となるテーマとしてフリーダ・カーロの生き様を掲げていたが、ここでもクリエイティヴで生命力に満ちた演奏を聴かせてくれる。
アナット・コーエン作の(6)「Nocturno」はよく練られたアレンジが見事なアンサンブルで、イスラエルジャズらしく、ほのかな異国情緒も漂わせるあたりが堪らない。
文化の多様性がジャズという共通言語の中で一体化
ARTEMISに参加する7人のミュージシャンは、いずれも凄腕、国際色も豊かだ。
リーダーのピアニスト、ロニー・ロスネスはカナダ出身で、アイルランド人の父、インド人の母を持つ。これまでにジョー・ヘンダーソン、ウェイン・ショーター、ボビー・ハッチャーソンらとの共演。1990年にBlue Note Recordsと契約し、多数のアルバムを発表している。
テナーサックスのメリッサ・アルダナ(Melissa Aldana)はチリ生まれで、南米出身の女性ミュージシャンとしては初めてセロニアス・モンク国際ジャズ・コンペティションで最優秀賞を受賞している。
クラリネットのアナット・コーエン(Anat Cohen)はイスラエル出身。実兄のアヴィシャイ・コーエン、ユヴァル・コーエンとの兄弟トリオでも著名。ブラジル音楽やラテン音楽にも傾倒しており、幅広く活動を行っている。
トランペットのイングリッド・ジェンセン(Ingrid Jensen)はカナダ出身。マリア・シュナイダー・オーケストラや、ダーシー・ジェームス・アーギューといったラージアンサンブルで演奏をしてきた。妹はサックス奏者のクリスティーヌ・ジェンセン。
ベースの植田典子(Noriko Ueda)は兵庫県宝塚市の出身。20代からNYで活動を始め、ケニー・バロン、テッド・ローゼンタール、フランク・ウェス、 グラディ・テイト、日野皓正、小曽根真といったアーティストと共演をしてきた。
アリソン・ミラー(Allison Miller)は米国を代表する女性ドラマーの一人だ。近年は山中千尋トリオでも演奏をしており、日本でもよく知られた存在。
(5)「If It’s Magic」と(8)「Cry, Buttercup, Cry」に参加しているフランスとハイチにルーツを持つヴォーカリスト、セシル・マクロリン・サルヴァント(Cécile McLorin Salvant)は2016年にグラミー賞最優秀ジャズ・ヴォーカル・アルバムを『For One to Love』で受賞している。
Renee Rosnes – piano
Melissa Aldana – tenor saxophone
Anat Cohen – clarinet
Ingrid Jensen – trumpet
Noriko Ueda – bass
Allison Miller – drum
Cécile McLorin Salvant – vocal