Música Terra が選ぶ 2020年ベストアルバムTOP10

2020 ベストアルバムTOP10

第10位:Tia Amélia para Sempre / Hércules Gomes(ブラジル)

ショーロ専門のピアニストとして近年注目されているブラジルのエルクレス・ゴメス(Hércules Gomes)。SNSでも頻繁に情報を発信するなど、その堅実なプレイスタイルからは連想しにくいですがフットワークは軽やか。そんな彼の2020年新作『Tia Amélia para Sempre』は知られざるショーロの女性作曲家チア・アメリアの楽曲集で、クラシックとブラジル音楽の絶妙な間の子であるショーロという音楽のシンプルな魅力にあらためて気づかせてくれました。

(7)「Cuíca no Choro」のライヴ演奏映像。
ショーロらしい短調と長調を行き来する展開が素敵な曲です。
クイーカと、ジングルを取り外したパンデイロのアンサンブルにも注目!

第9位:The Call Within / Tigran Hamasyan(アルメニア)

世界中の幅広いジャンルのアーティストに影響を与え続ける鬼才ティグラン・ハマシアン(Tigran Hamasyan)は近年ピアノソロや教会音楽、映画音楽といった控え目な音楽が多かったですが、2020年新譜『The Call Within』でついにプログレッシヴなピアノトリオで帰ってきました!ティグラン節フルスロットルの内容で、名盤『Mookroot』にも匹敵。アニマルズ・アズ・リーダーズのトシン・アバシや、同郷のチェリスト、アルチョーム・マヌーキアンもゲスト参加しアクを強くしています。

アルメニア民謡、ジャズ、メタル、プログレなどを鍋にぶち込んで煮詰めたようなティグラン節が炸裂する(10)「New Maps」。

第8位:Der Weise Panda / Der Weise Panda(ドイツ)

ドイツ・ケルンを拠点に活動する5人組バンド、デア・ヴァイゼ・パンダ(Der Weise Panda)の2ndとなるセルフタイトル作『Der Weise Panda』もとても良いアルバムでした。サウンド面ではピアニストの交代とチェリストの新規加入で色彩感が増し、見違えるほど知的で洗練された印象を受けます。室内楽的なアプローチのバンドに溶け込む女性ヴォーカルも最高。

メンバーの変化はあれど、バンドの中心はリーダーでヴォーカリストの才媛マイカ・キュスター(Maika Küster)。
この(4)「Green Bird」中間部で見せるラップのようなスポークンワードも素敵です。

第7位:בזמנו / Uzi Navon & Acquaintances(イスラエル)

1970年からタイムスリップしてきたことを強引に主張するクレイジーなバンド、ウジ・ナボン&アクウェインタンセズ(Uzi Navon & Acquaintances)も今年強く印象に残ったバンドでした。2010年のファーストアルバムから10年を経てリリースされた『בזמנו』でも、彼らの時は1970年で止まったまま。徹底的なこだわりが最高すぎます。

(7)「בלי משחקים」(英訳:No Games)のMV。
これ、今年の新譜なんだぜ…

第6位:Compartidas / Así(アルゼンチン)

アルゼンチンのSSWゴンサ・サンチェス(Gonza Sanchez)率いるバンド、アスィ(Así)『Compartidas』は穏やかな時間が流れる夢見心地な傑作。リズムも気持ちよく、男女ヴォーカルの声も素敵。どんなシーンにも合う洒落たサウンドは、家で、通勤電車の中で、週末のドライブで…と大活躍してくれました。

(1)「Pacífica Atlántica」

第5位:Here Be Dragons / Oded Tzur(イスラエル)

オデッド・ツール(Oded Tzur)という人のサックスは唯一無二です。
ECMデビューとなる今作『Here Be Dragons』はニタイ・ハーシュコヴィッツ(p)、ペトロス・クランパニス(b)、ジョナサン・ブレイク(ds)という編成で、禅にも通じる深く美しい精神世界を描いてくれました。
心を静かに落ち着かせたいとき、必ずこのアルバムに浸っていました。

このエルヴィス・プレスリーの(8)「Can’t Help Falling In Love」は本作唯一のカヴァー。
他は全てオリジナルで、暗闇のなかで静かに燃え上がる青い炎のような、限りなく美しい演奏が続きます。

第4位:Songs / Stav Goldberg(イスラエル)

イスラエル生まれ、ニューヨークでジャズを学んだ新人ピアニスト/SSWのスタヴ・ゴールドベルグStav Goldberg)衝撃のデビュー作『Songs』。自然な変拍子使いや落ち着いた声、ピアノのアドリブのセンスなど、瑞々しい感性が随所に光ります。
とにかく1曲目「Ayala」が絶品!

(4)「Perach (Flower)」はブラジル音楽からの影響が色濃く出た楽曲で、爽やかさ満点。

第3位:Piramba / Davi Fonseca(ブラジル)

ダヴィ・フォンセカ(Davi Fonseca)は今年デビューした“ミナス新世代”のひとり。おそらく職人気質なのでしょうか、アルバム『Piramba』は複雑な変拍子など入り組んだアレンジの曲が多く、現代音楽やジャズ、クラシックが混合していますがそれらを自然と組み立て、ポップスに仕上げるセンスに脱帽。
アレシャンドリ・アンドレス、ハファエル・マルチニ、フェリピ・ヴィラス・ボアス、モニカ・サウマーゾといった注目の音楽家たちも参加した本作は2020年上半期の個人的ベスト・アルバムです。

(1)「João no Pati」は17/16拍子。
実験的な要素や構成を、見事なポップスとして昇華するセンスが素晴らしい。

第2位:Vata / Marcos Ruffato(ブラジル)

ブラジル・ミナスの新人SSW、マルコス・ルファート(Marcos Ruffato)がミナスの新旧の素晴らしい音楽家たちとともに作り上げたデビュー作『Vata』も素晴らしい一枚でした。インドの古代医学に由来するタイトルの本作は、新型コロナウイルスが蔓延し苦難の時代となった2020年に突如登場した救いのような作品で、アーティストの願いどおり、世界を覆った重たく厚い雲を取り払ってくれるような爽やかさが深く心に響くアルバム。
30代中盤で友人の勧めで参加した器楽曲のコンテストで優勝し、その後クラウドファンディングで資金を集めSSWとして本作でデビューしたという異色の経歴ですが、トニーニョ・オルタを始めとする多くの才能の参加もあり、近年のミナス界隈の充実したシーンを象徴するような素晴らしい作品となりました。

当サイト・ムジカテーハでの紹介記事がきっかけとなり橋本徹さんのレーベル「アプレミディ・レコーズ」さんからお声がけ頂き、国内盤CDのライナーノーツを書くという経験もさせていただいた、個人的にも今年最も重要な一枚です。

マルコス・ルファートの7弦ガットギターと、クリストヴァン・バストスのピアノ、マルコスと三姉妹グループ「Amaranto」によるヴォーカルも絶品の(1)「O Azul」。

第1位:מדובר באלבום / Pinhas & Sons(イスラエル)

今年一番聴いたアルバムはこれ、イスラエルのバンド、ピンハス&サンズ(Pinhas & Sons)『מדובר באלבום』(タイトル英語訳は『About an Album』)。

5月下旬にこのバンドを知って、以来ずーっと、何度も繰り返し聴き続けてます。

複雑な変拍子や独特の旋律を随所に用いた楽曲のレベルの高さも、バンドメンバーの演奏の巧さ・アンサンブルの正確さも、女性ヴォーカリスト、ノア・カラダヴィドの圧倒的歌唱力もマジで群を抜いています。驚異的なセンスの塊で、ほかのあらゆる音楽を隅に追いやるレベル。聴けば聴くほどに音楽に仕込まれた隠し味が次々と明らかになって全く聴き飽きることがないどころか、逆にどんどんその魅力に引き込まれます。

2018年リリースですが、日本での“発見”は2020年。輸入盤が日本に入ってきたのも2020年なので今年のベストに含めて問題なし(自己判断)。アルバム名も曲名も読めないけど一切問題なし!正直、このアルバムを超える衝撃はこの先10年はないと思ってます。

ユーロビジョン・ソング・コンテスト2013のために書かれた(が残念ながら審査に落ちた)曲(6)「מחול הטירוף(狂気のダンス)」。
ファンを中心につくられたオーケストラと合唱団も参加し皆で歌い、演奏し、踊り狂う。
この動画はまだ人々が密になって歌い踊れた時代における、人類の最高の遺産のひとつです。
Pinhas & Sons で真っ先に好きになった曲(12)「כן זה חסר סיכוי」。
もう聴いた瞬間脳天に雷が落ちたくらいの衝撃でした。
バロック調の重厚なイントロから一転し軽やかでラテンなピアノ、まもなく男性&女性ヴォーカルによるエルメート・パスコアールのような複雑なメロディを持つヴァースが始まる。そしてフルートとピアノのソロが終わるとノア・カラダヴィドの痺れるような美声が響き、最後はブラジリアンなサンバ・アンサンブルへ。
小節単位でころころと拍子が変わる(4)「עץ שנופל」。
これだけ複雑な曲なのに、ポップスのような耳馴染みの良さ。
途中からリードヴォーカルも取るリーダー、オフェル・ピンハスは天才としか言いようがない。
ラストのフルートのソロも凄まじいです。

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