ルイス・フェリピ・ガマ&アナ・ルイーザ『Contrabando』
ブラジルのピアニスト/作曲家ルイス・フェリピ・ガマ(Luis Felipe Gama)と歌手アナ・ルイーザ(Ana Luiza)のデュオと、ポルトガルの詩人ティアゴ・トーレス・ダ・シルヴァ(Tiago Torres da Silva)の共同名義の『Contrabando』は、両国の豊かな文化が混合した、この上なく美しい15の室内楽的ヴォーカル・ジャズを堪能できる傑作だ。
ルイス・フェリピ・ガマとアナ・ルイーザは1994年から音楽活動を共にしているが、その音楽性の高さの割りに日本での知名度が低いように思う。私も今作で初めて彼らの音楽に触れたが、アンドレ・メマーリ(Andre Mehmari)の名盤『Canteiro』に比肩するほどの素晴らしい作品であることは間違いない。アナ・ルイーザの少し憂いを帯びた包容力のある歌声と、ルイスのリラックスした自由自在なピアノの完璧な相性は長年のデュオ活動でお互いを知り尽くしているからこその出来栄えだろう。
今作ではシモーネ・ヂ・オリヴェイラ(Simone de Oliveira)、アルシオーネ(Alcione)、ネイ・マトグロッソ(Ney Matogrosso)といったそれぞれが強烈な個性を持った大物も数曲でゲスト参加しているが、個人的には声はアナ・ルイーザだけ、彼女の声が持つ世界観だけで充分だったように思う。それだけ、このデュオの世界観は独特かつ完成されている。
(1)「Coração Tupi」ではピアノと歌のほかに美しいチェロがフィーチュアされている。(2)「O Fundo de um Minuto」のリズム、旋律も見事としか言いようがない。その後もジャズとクラシック、ブラジルの伝統音楽を中心に多様なジャンルにインスパイアされた美しい曲が並ぶ。このような文化的で素晴らしいアルバムはそうそうない。
詩人ティアゴ・トーレス・ダ・シルヴァはポルトガル出身だが、ブラジルの有名女優/歌手ビビ・フェレイラ(Bibi Ferreira)のショー『アマリア』の監督を務めるなどブラジルとの関係は深い。
ルイス&アナのデュオとティアゴを引き合わせたのは今作にもゲスト参加するネイ・マトグロッソで、意気投合した彼らはティアゴが書いた15の詞に曲をつけた。当初はピアノとヴォーカルだけで録音される予定だったが、プロジェクトはすぐにその規模を広げ、ドミンギーニョス(Dominguinhos)やナイロール・プロヴェータ(Nailor Proveta)ら20名以上のアーティストも巻き込みこの傑作を生み出した。
ルゾフォニア(ポルトガル語圏)の豊かな文化的繋がりを感じさせてくれる素晴らしい一枚だ。