社会の闇を描き出す。ムッシュ・ドゥマニの4thアルバム『Pissourin』
トルコの南に浮かぶ島国キプロス共和国のバンド、ムッシュ・ドゥマニ(Monsieur Doumani)の2021年作『Pissourin』。一聴すると地中海地域や中東地域の伝統音楽をロックやヒップホップ、エレクトロ・ミュージックといった現代の広域的な共通価値観とブレンドすることに成功した面白い作品だ。
バンドはツォーラ(ブズーキに似た弦楽器)とヴォーカルを担当するアントニス・アントニオウ(Antonis Antoniou)、トロンボーン/フルートのデメトリス・ヤセミデス(Demetris Yiasemides)、ギターのアンディ・スコルディス(Andys Skordis)の3人。ここにリズム楽器や電子的な音響処理も加わり、独自の世界観を築く。
アルバムタイトルはギリシャ語のキプロス方言で“完全な暗闇”を意味しているという。確かに今作の収録曲はどれも不穏な空気が充満しており、その不思議なメロディーラインは時折暗闇からの脱出を試みるようにもがきながら上昇や下降を繰り返すものの、最後には基音の引力に抗えず元の場所に戻ってくる。
終始一貫したトーンが充満するアルバムを聴き進めるうちに、これはあらゆる意味で病気が蔓延する現代社会を映し出す鏡のような音楽だ、とも思う。
品性を欠く無知で暴力的な政治、被害妄想から生まれ暴走する正義、不安の連鎖……暗闇から突然姿を現す化物のように続々と可視化される人々の愚かさと狂気から自らの身を守るには、彼らは閉じ籠ってひたすら音楽に没頭するしかなかったのかもしれない。南北に分断され約半世紀にわたり政治的な膠着状態の続くキプロスからこうした作品が生み出されてくる意味にも考えを巡らせてみたい。
Monsieur Doumani は2011年の結成以来、一貫してキプロスの伝統音楽を現代に投影した新しい音楽を探求してきた。
2018年作『Angathin』は各媒体でワールドミュージック部門の年間ベストアルバムとして高く評価された。
2019年にバンド創立メンバーのアンジェロス・イオナス(Angelos Ionas)が脱退し、後任として既にツアーなどに帯同していたギタリストのアンディ・スコルディス(Andys Skordis)が正式加入。今作はメンバー交代後の最初の作品となっている。
Monsieur Doumani :
Antonis Antoniou – tzouras, vocals, electronics
Demetris Yiasemides – trombone, flute
Andys Skordis – guitar, loops, backing vocals