JAZZの枠を軽々と飛び越えた若き天才Jacob Collierが見せた音楽の世界旅行。2019年作『Djesse vol.2』

声、演奏、どれをとっても唯一無二。気持ちよさだけが残る至福の音楽。

皆さんは「神童」という言葉に何を思い浮かべるだろうか。
2022年現在、大谷翔平がメジャーリーグで世界的に大活躍をし、羽生結弦も自身3度目の五輪制覇に向けて他を寄せ付けない圧倒的な強さを見せている。
若くして、その才を世界に見せつけた天才。
それが「神童」の定義だとするのならば、ここにもう一人の「神童」をご紹介したい。
英国出身のマルチアーティスト、ジェイコブ・コリアー(Jacob Collier)。奇しくも大谷・羽生と同じ27才もまた、世界に大きく羽ばたこうとしている。
ここではコリアーの作品の中でも最もワールドミュージックの色濃い2019年作『Djesse Vol.2』(ジェシーVol.2)をご紹介したい。

(1)「Intro」は、同じく英国のノーザンブリアン・スモール・パイプ奏者、キャスリン・ティッケル(Kathryn Tickell)をフィーチャー。バグパイプのような音色が静かに鳴り響く中、本作は幕を開ける。
(2)「Sky Above」でようやく差し込まれるコリアーの歌声は、温かで美しい。静謐なゴスペルのような立ち上がりからギター、クラップ、そして前述のパイプ音が(1)の伏線を回収するかのように最後に鳴り響く様は、聴くものに素晴らしいカタルシスを与えてくれる、タイトル通り、空のように壮大に広がりを見せる1曲だ。
SSWの大先輩、米国のサム・アミドン(Sam Amidon)を迎えた(3)「Bakumbe」はアミドンのバンジョーの音色に後半はストリングスが入り込み、ケルト音楽さながらに楽し気な民族音楽の世界が広がる。
(4)「Make Me Cry」は、本作からのファーストシングル。ジャック・ジョンソンのようなギターの音色の優しいサーフミュージックのようでありながら、サビの部分のメロディラインやベースの響きからジャズの素養を非常に感じる1曲。
(5)「Moon River」はご存じの通り、『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘプバーンが歌ったヘンリー・マンシーニ&ジョニーマーサー作のアカペラアレンジ。彼の特徴でもある多重録音コーラスが最大限に活かされた楽曲であり、2020年のグラミー賞(Best Arrengement,Instrumental or A Cappella部門)受賞作。イントロだけで2分強、全体で約9分弱、100人以上のコーラスを多重録音したという超大作は間違いなく本作のハイライトと言っていいだろう。

(5)「Moon River」


(6)「Feel」に参加するリアン・ラ・ハヴァス(Liannne La Havas)は、ジャマイカとギリシャをルーツに持つSSW。スモーキーな歌声を持つ彼女をフィーチャーした本曲は、コリアーがフェイバリットアーティストの一人として挙げているディアンジェロからの影響を強く感じるネオソウル楽曲。Interludeを挟んでの(8)「Lua」はポルトガル出身のSSW・MAROをフィーチャーした、ゆったりとしたストリングスとポルトガル詞が心地いいジャズナンバー。同様に(9)「I Heard You Singing」もマンドリン奏者のクリス・シーリ(Chris Thile)とSSWのベッカ・スティーブンス(Becca Stevens)を招いた、奥行きのある美しい楽曲だ。 (11)「Here Comes The Sun」はBeatlesのカバー。Dodieとのデュエットが爽やかでまぶしい本楽曲から間奏でアフリカの匂いがしてくると、 (12)「Dun Dun Ba Ba」(13)「nabaluyo」では音楽の旅はアフリカへ。後者はマリのウム・サンガレ(Oumou Sangare)をフィーチャーしている。

自身のyoutubeで「『Djesse』シリーズは4部作」と語るコリアー。
よりHip Hop/R&Bにアプローチした『Djesse vol.3』では受賞こそならなかったものの、ついにJAZZの枠を超えアルバム賞にまで手が届くところまできた。(『vol.3』は実は個人的にかなり好み。音の作りがより変態的に仕上がっている。)
次作『Djesse vol.4』ではどのような音で我々を驚かせてくれるのだろうか。

クインシー・ジョーンズ、ハービー・ハンコック、チック・コリアら偉大なる先達たちも認める天才、ジェイコブ・コリアーが新たな音楽を作っていく過程を見届ける幸せをこれからも噛みしめていきたい。

『Djesse vol.3』より「All I Need」。この曲でコリアーを知った方も多いのではないだろうか。聞きやすいオシャレなR&Bナンバーは2021年のグラミーでBest R&B Performanceにノミネート。

プロフィール

1994年生まれ。音楽教師でありヴァイオリニストのスーザン・コリアーと、母方の祖父で王立音楽アカデミーで教鞭をとるデレク・コリアーの音楽的英才教育を受けながら、同アカデミーでジャズピアノを学ぶ。2012年に発表したスティーヴィー・ワンダーの「Don’t You Worry ‘bout a Thing」のカヴァー動画でクインシー・ジョーンズの目に留まり、モントルー・ジャズ・フェスティバルなどに出演。2016年にデビュー・アルバム『In My Room』をリリース後、2018年から始まった『Djesse』シリーズでは3作連続でグラミー賞(Best Arrengement,Instrumental or A Cappella部門)を受賞している。

スティーヴィー・ワンダーの「Don’t You Worry ‘bout a Thing」のカヴァー。当時18歳!代名詞でもある多重録音によるコーラスとすべての演奏を自身で行うスタイルが世界に衝撃を与えた。
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