アヴィシャイ・コーエン、新トリオで放つ新譜『Shifting Sands』
イスラエルを代表するベーシスト/作曲家、アヴィシャイ・コーエン(Avishai Cohen)が新トリオでの新譜『Shifting Sands』をリリースした。ピアノトリオでの作品は『Arvoles』(2019年)以来。ピアノには引き続きアゼルバイジャン出身のエルチン・シリノフ(Elchin Shirinov)、そして今作では2020年にトリオに加入しツアーなどに参加していた若き女性ドラマー、ロニ・カスピ(Roni Kaspi)が初めてアルバムに登場する。
変拍子だらけのオリエンタル感満載の楽曲、ピチカートもアルコもパワフルなアヴィシャイのベース、輪郭が濃くムガームジャズの影響を受けた魅力的なフレージングのエルチンのピアノは安定の素晴らしさで、となるとやはり注目は他に録音物も見当たらないロニ・カスピというドラマーのパフォーマンスだろう。
注目は新加入ドラマー、ロニ・カスピ
ロニ・カスピは2000年生まれで、幼い頃からアヴィシャイ・コーエンの音楽に触れて育ったという。
これまでに数多くの優れたアーティストを自身のトリオを通じて世界に紹介してきたアヴィシャイは、バークリー音楽大学のテリ・リン・キャリントン(Terri Lyne Carrington)教授の学生だった彼女に目をつけた。ロニ・カスピはCovid-19のパンデミックによって授業がオンラインになった際にイスラエルに戻っており、最初はアヴィシャイとオンラインで共演したのち、即座に音楽的に深い繋がりへと発展したようだ。
彼女はバークリー在学中の2020年9月からアヴィシャイ・コーエン、エルチン・シリノフとのツアーに参加するようになり、バークリーを卒業した直後の2022年5月、このアルバムによってついに世界に広く紹介されることになった。
これまでもアヴィシャイ・コーエンは自身のトリオを通じてマーク・ジュリアナ(Mark Guiliana)、ノーム・ダヴィド(Noam David)といった世界的ドラマーを紹介し続けてきたが、繊細かつ大胆で変幻自在なドラミングに加え魅力的なタレント性も持ったロニ・カスピという新しい才能も、今後大きく羽ばたかせることは間違いなさそうだ。
“アヴィシャイ・コーエンらしさ”ど真ん中のアルバム
収録曲はすべてアヴィシャイの作曲で、パンデミック中にエルサレム近郊の自宅で作曲されたもの。
近年の彼はシンガーソングライターやプロデューサーとしての才覚に目覚め、ヴォーカルやピアノを中心に据えた『1970』(2017年)やオーケストラとの共演作『Two Roses』(2021年)など幅広いプロジェクトに取り組んできたが、ピアノトリオという彼の活動の原点に戻ってきた本作は、やはりアヴィシャイ・コーエンという稀代の音楽家の濃縮された魅力が余すところなく発揮されている。
エルチン・シリノフ、ロニ・カスピという優れた個性を持つミュージシャンとの化学反応を得て、多様化する現代のジャズシーンのひとつの太い枝であるイスラエル・ジャズをさらに未来へと強く太く伸ばしていく、そんな金字塔になり得る作品だ。
Avishai Cohen – bass
Elchin Shirinov – piano
Roni Kaspi – drums