イスラエルジャズの巨匠アヴィシャイ・コーエン、交響楽団と演奏する中東音楽絵巻

Avishai Cohen - Two Roses

ベーシストのアヴィシャイ・コーエン、初のフルオーケストラ共演作!

イスラエルを代表するベーシスト/作曲家アヴィシャイ・コーエン(Avishai Cohen)新譜『Two Roses』は、ピアノに近年のレギュラートリオのメンバーでアゼルバイジャン出身のエルチン・シリノフ(Elchin Shirinov)、ドラムスに2000年代に彼のトリオで活躍した米国出身のマーク・ジュリアナ(Mark Guiliana)を擁するコアトリオに加え、総勢92名のオーケストラと共演し録音した意欲的な作品だ。

アルバムタイトルにもなっている(4)「Two Roses(Shnei Shoshanim)」は作曲モルデカイ・ゼイラ(Mordechai Zeira, 1905 – 1968)、作詞ヤーコヴ・オーランド(Yaakov Orland, 1914 – 2002)による最も良く知られているユダヤの古典曲で、歌詞では一緒に生まれ育ってきた白と赤の2本の薔薇、そしてある日そのうちの1本が摘まれ、残された1本の薔薇の心の中の悲しみを歌っている。

本作はこの曲に代表されるようにユダヤ、そしてアラブの音楽を主題にした内容だ。過去作から厳選したオリジナル曲と、いくつかの中東地域に因むカヴァー曲を取り上げ演奏している。
もちろん、アヴィシャイはベースを弾くだけでなく(近年の彼の作品の多くがそうであるように)──今回もばっちり歌っている。

(5)「Nature Boy」はナット・キング・コールが歌いジャズスタンダードとなった曲だが、作曲者のエデン・アーベ(Eden Ahbez, 1908 – 1995)は実はユダヤ系米国人。奇人と言われたエデン・アーベが残したこの名曲を今回オーケストラに編曲したのはアヴィシャイともう一人、イスラエルの作編曲家/ヴァイオリン奏者のヨナタン・ケレン(Jonathan Keren)で、重厚なオーケストラの魅力を存分に引き出した本作随一の美しさを誇るアレンジとなっている。

『Two Roses』のEPK。

アヴィシャイにとってフルオーケストラのスコアを書き演奏することは十年来の夢だった。長年その構想を抱き続けてきた彼は、いくつかのオーケストラに連絡をとり、ついに自分の挑戦に立ち向かうことのできる楽団を見つけた。それが本作での共演が実現したエーテボリ交響楽団(Gothenburg Symphony Orchestra)、1905年創立の歴史あるスウェーデンの楽団である。
過去作からの再演であるオリジナルの(1)「Almah Sleeping」や(5)「Emotional Storm」、セファルディの伝統曲である(7)「Puncha Puncha」も今回はオーケストラをバックにして、これまでの情熱的で豪快で力強さが勝るトリオ演奏にはあまり感じられなかった繊細さが随所に宿る。92人という大編成の中での即興はいつもと違うやりづらさもあっただろうと思うが、アヴィシャイはその音の束を心から楽しんでいるようだ。

そしてやはり、エルチン・シリノフのピアノ、マーク・ジュリアナのドラムスも地味に素晴らしい。今回はどうしてもオーケストラがサウンドの主役になりがちだが、それでも彼らのソロになると音楽の重心を従来のアヴィシャイのジャズトリオの音に自然に移させ、あぁ、確かにこの音楽は大好きなアヴィシャイ・コーエンのそれなんだ、という感覚を思い起こさせてくれる。(8)「Arab Medley」などはトリオが主導権を握りオーケストラを牽引している好例だろう。

昨年50歳の節目を迎え、50曲の豪華ベスト盤『The 50 Gold Selection』もリリースしたアヴィシャイ・コーエン。多くのミュージシャンがオーケストラとの共演を夢見るが、それを実現することができるのは実力も経済力も運も兼ね備えた、ほんの僅かの成功者のみだ。
中東のジャズを世界に知らしめてきた偉大な男は、今作で音楽家としての人生に新たな章を力強く書き加えた。まだまだ彼の挑戦は続いていきそうだ。

Avishai Cohen – vocal, double bass, electric bass, synth
Mark Guiliana – drums
Elchin Shirinov – piano


Gothenburg Symphony Orchestra :
Alexander Hanson – conductor

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