パンデミックの闇の中を彷徨う夢遊JAZZ。NYとイスラエルを繋ぐオル・バレケット新作

Or Bareket - Sahar

オル・バレケット、NYの気鋭奏者と描くドリーミーな新譜

アヴィシャイ・コーエンの『Shifting Sands』、ギラッド・ヘクセルマンの『Far Star』とイスラエルジャズの年間ベスト級新譜のリリースが相次いでいるが、同時期にリリースされたエルサレム生まれのベーシスト/作曲家オル・バレケット(Or Bareket)の3枚目のアルバム『Sahar』も相当に素晴らしい作品だ。

アルバムはジョエル・ロス(Joel Ross)がプロデュース。テナーサックスやEWI、オルガンを担当するモーガン・ゲリン(Morgan Guerin)、ピアニストのジェレミー・コレン(Jeremy Corren)、女性ドラマーのサヴァンナ・ハリス(Savannah Harris)といったニューヨーク・ジャズ新世代の精鋭が集っており、イスラエルとNYというシーンの最先端を跨ぐ音作りが魅力的な内容となっている。

オル・バレケットのルーツは多様だ。先祖にはモロッコ、イラク、アルゼンチン、東ヨーロッパ人などがおり、彼自身もテルアビブとブエノスアイレスで育ってきた。
今作のタイトル「Sahar」もヘブライ語では「三日月」を意味するが、一部のアラビア語の方言では「不眠症」あるいは「早朝」という意味になるとのこと。パンデミックの間にオル・バレケットによって書かれた楽曲群は、いつ明けるかも分からない夜の深い闇と、その中で強い憧れを抱き続けついに辿り着いた夢を思い起こさせる。実際、モーガン・ゲリンが随所で披露するウィンド・シンセサイザーの音は夢遊病のように空中を漂う。

(2)「Soil」

多様なルーツ、そしてパンデミック下の抑圧や精神の解放という点でいうと、(8)「A Lullaby for Troubled Ancestors(問題を抱えた祖先のための子守唄)」、これもなかなかにタイトル・曲調ともに想像力を掻き立てられてしまう。

ラストのタイトル曲(10)「Sahar」もまた意味深だ。
この幸せな夢から、私たちは目覚めることができるのだろうか。

(10)「Sahar」

Or Bareket – bass
Morgan Guerin – tenor saxophone, EWI, organ
Jeremy Corren – piano, Fender Rhodes
Savannah Harris – drums, percussion
Joel Ross – auxiliary percussion

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