創作楽器三兄弟 Tako Toki、世界中を飛び回るような新作
深編笠を被った三兄弟が、先祖代々から受け継いだ創作楽器を用い、国籍不明の独創的な音楽を奏でる──
彼らはタコ・トキ(Tako Toki)という、フランスを拠点に活動するグループだ。グループ名は日本語のタコ(蛸)に、韓国語でウサギを表すトキ(토끼)を組み合わせたもの。先祖のルーツはベトナム、韓国、日本、沖縄に跨るらしい。
三つ子はそれぞれ名をオレル・トキ(Aurèle Toki)、エティエンヌ・トキ(Etienne Toki)、そしてニコ・トキ(Nico Toki)という。彼らは廃材やキッチン用品などをアップサイクルした楽器をメインに、ときにはクラリネットやフルートも用いて非凡なセンスの楽曲を披露する。2025年2月に『Hirsutes Farfelus』を引っ提げてデビューしたが、2026年6月に早くも2枚目のアルバム『Un dimanche à Monaco』をリリースした。
そして彼らの演る音楽が、また異常にハイレベルで面白いのだ。
音楽性は実験精神に満ちつつ、バルカン、アフロビート、サンバ、東アジア音楽などを軽やかに横断。聴いてみれば、その遊び心だけではなく、そこはかとなくアカデミックな素養も漂う音楽性の高さに驚くはずだ。
(1)「Yanitza」でいきなりクレズマー音楽を聴かせたかと思えば、創作楽器による謎めいたティータイム(2)「Tea Time」を挟み、スペイン語のナレーションも挟んでラテン音楽、とくに南米のフォルクローレを思わせる(4)「la Cuenta」へと移ろってゆく。 ……こいつら、いったい何者!?
とにかく、まずは彼らの公式サイトに掲げられたプロフィールを紹介しよう:
三つ子のトキ三兄弟は、由緒ある一族の系譜を受け継ぐ存在である。
曾祖父パブロ・トキは、自ら廃材を使って楽器を作った最初の人物であった。彼はコーチシナ地方1ヴィンロンの野外廃棄場で管理人として働いていたが、退屈を紛らわせるために、廃材から素朴な弦楽器を作り、自作の歌を口ずさむようになった。なかでも彼が考案した「モノカルドン」は、生涯にわたって愛用した自作楽器であり、現在もなお三つ子が受け継いでいる。
祖父パコ・トキもまた家族の伝統を受け継ぎ、主に台所用品を材料として100種類を超える楽器を製作した。日韓の血を引くパコは、沖縄でウサギとタコのシチューを名物とするレストランを営んでいた。その料理が評判となり、店はやがて看板料理の名を冠して「Tako Toki」と呼ばれるようになる。「Tako」は日本語でタコ、「Toki」は韓国語でウサギを意味するという。
三つ子の父ペドロ・トキは料理人としては冴えず、残念ながらそのシチューのレシピを失ってしまった。しかし、廃材を再利用し、音楽へと生まれ変わらせる情熱だけは息子たちへと受け継いだ。音楽家としても決して腕が立つわけではなかったが、その想像力は混沌としていながら実に豊かであり、1970年代にヒッピー・コミュニティとともに移り住んだバリ島ゴブレグの自動車解体工場で集めた金属部品を使って、数多くの楽器を生み出した。そして、その地で数十年後にトキ三つ子が誕生することとなる。
やがてヨーロッパへ戻ったオレル、エティエンヌ、ニコの三兄弟は、それぞれ別々の道を歩み、パリ国立高等音楽院やジュネーヴ高等音楽院をはじめとする名門音楽学校で正統的な音楽教育を受けた。その後再び集結し、トリオ「Tako Toki」を結成する。クロード・ドビュッシーの言葉をもじれば、その音楽は「現代のあらゆる快適さを備えた野生の音楽」である。長年受け継がれてきた一族の粗削りな音楽文化と、洗練された専門的な音楽教育とが融合した、唯一無二の表現なのである。
takotoki.com/biographie
アルバムタイトルにもなっている(6)「Un dimanche à Monaco」(モナコの日曜日)は、祭囃子を思わせる陽気に跳ねたリズムが楽しく親しみ深いが、バックビートが何気なく強調されたり、ジャズを思わせる高度な即興演奏が披露されたり、後半でリズムが変貌したりと音楽的に洗練されている。
──そろそろ、本当の話をしよう。
これらの来歴は、ほとんどが作り話である。
“ほとんど”と書いたのは、彼らが創作楽器で音楽を演奏していること、そして名門音楽学校で正統的な音楽教育を受けたという部分は真に事実だからだ。
Tako Toki は、エチオジャズや韓国歌謡の再解釈といった活動で知られる木管奏者、エティエンヌ・トキことエティエンヌ・ド・ラ・サイエット(Etienne de la Sayette)を中心とした、創造的で実験的なプロジェクトだ。彼と、スイス出身でフランスの音楽院で打楽器教育にも携わるオレル・ジェラン(Aurèle Gerin)、そしてジャズと室内楽の双方で活動するドラマー/クラリネット奏者のニコラ・ブレモー(Nicolas Brémaud)の3人は、気候変動やデジタル疎外、過剰消費社会といった問題について議論する中でこのバンドを結成。「la musique sauvage avec tout le confort moderne(現代的な洗練をまとった野生の音楽)」というドビュッシーの言葉を借りたコンセプトで活動を開始した。
廃棄物やリサイクル素材から作られた様々な創作楽器を駆使していることは、作り話ではなく実際に行われている彼らの凄みなのだが、驚くべきはその創作楽器群のピッチの正確性だ。広く流通する既成楽器にも遜色のない創作楽器群によるサウンドは相当にハイレベルで、彼らが単に“おもしろバンド”ではないことを証明している。
今作は、架空の短編映画『Badass』(直訳で、“ヤバい”という意味)のサウンドトラックという位置付けのようだ。
この縦横無尽に世界中を飛び回るような奇想天外な“サウンドトラック”から想像するに、おそらくその(存在しない)映画本編も型破りで破天荒な、カルト的信奉者を生み出すような超B級な傑作なのだろうと思う。
Tako Toki プロフィール
Tako Toki (タコ 토끼)はフランス・パリを拠点に活動する3人組。サックス/木管楽器奏者のエティエンヌ・ド・ラ・サイエット(Etienne de la Sayette)、パーカッショニストのオレル・ジェラン(Aurèle Gerin)、ドラマー/クラリネット奏者のニコラ・ブレモー(Nicolas Brémaud)によって結成された。
廃材や日用品から自ら製作したオリジナル楽器だけを用いて演奏する独創的なスタイルを特徴とし、作曲、楽器製作、レコーディング、舞台衣装までDIYすることに拘っている。
ジャズ、ワールドミュージック、ミニマル・ミュージック、アフリカ音楽、バルカン音楽、アジア音楽などを自在に融合した唯一無二のサウンドで注目を集め、2025年のデビュー作『Hirsutes Farfelus』、2026年の『Un dimanche à Monaco』はいずれも海外メディアから高い評価を受けた。
グループが掲げる「廃材から美しい音楽を生み出す」というコンセプトは、環境意識と創造性を結び付けた現代的な音楽/芸術表現として唯一無二だ。
- コーチシナ地方(交趾支那, フランス語:Cochinchine)…フランス統治時代のベトナム南部を指す歴史的呼称。 ↩︎