David Helbock & Camille Bertault 初のデュオ作『Playground』
オーストリア生まれのピアニスト、ダヴィッド・ヘルボック(David Helbock)と、フランス生まれYouTube育ち(?)のジャズ・ヴォーカリスト、カミーユ・ベルトー(Camille Bertault)のデュオアルバム『Playground』。
一見するとピアノと女性ヴォーカルというよくあるデュオのフォーマットだが、そこはユニークな個性と経歴を持つこの二人だからこそ成し得た、非常に特色のある作品に仕上がっている。
アルバムには二人のオリジナルのほか、ブラジルのマルチ奏者エグベルト・ジスモンチの(1)「Frevo」、ビリー・ホリデイが歌った(2)「Good Morning Heartache」、ロシアの作曲家アレクサンドル・スクリャービンの(2)「3つの小品 練習曲 Op.2-1 嬰ハ短調」、アイスランドの歌姫ビュークの(4)「New World」、ジャズの巨匠セロニアス・モンクの(9)「Ask Me Now」といった多種多様なカヴァーも含まれている。二人の音楽的ルーツが垣間見えるその選曲の多様性ももちろんだが、独創的なアレンジや、さらには謎のエフェクトなどサウンドも凝ったものになっており一筋縄ではいかない。
ジスモンチの(1)「Frevo」はアルバムの幕開けに相応しい。多才で音楽の可能性を拡張した鬼才の名曲を題材に、ここではヘルボックとベルトーの二人が独自の遊び心を加えていく。原曲の模倣や再現ではなく、先人が積み重ねてきた資産を活用し新たな価値を与え、次へと繋げる──科学が多くの失敗と成功を重ね人類の知見を発展させてきたのと同じように、ここには音楽の進化の枝葉のひとつが力強く存在している。
(12)「Para Hermeto」はタイトル通り、ブラジルの鬼才エルメート・パスコアールにインスパイアされている。この曲は映像も公開されているが、二人がそれぞれの楽器──ピアノと声──を用いて音楽的に表現できる最高の方法を模索している様が楽しく、アルバムタイトルである“遊び場”を最も的確に効果的に体現した楽曲といえるだろう。
David Helbock & Camille Bertault プロフィール
英ロンドン・タイムズ紙によって“完成されたメロディックな演奏と不条理なセンスが光る”と評されたピアニスト/作曲家のダヴィッド・ヘルボックは1984年オーストリア・コプラッハ生まれ。6歳からクラシックのピアノを学び始め、2000年から米国のジャズピアニストのピーター・マドセン(Peter Madsen)にジャズピアノを、さらに現代音楽の作曲家/ピアニストのジョージ・クラム(George Crumb)にも師事し、現在のユニークな奏法を築き上げていった。
シンガーのカミーユ・ベルトーは1986年生まれ。パリ高等音楽学校ではピアノを専攻、さらには演劇などの経験も持つ。
2015年のある日、コルトレーンの「Giant Steps」のソロをスキャットで歌った自撮り動画をYouTubeにアップしたところ、その柔軟で完璧な歌唱がFacebookなどでも拡散され話題に。Sunnyside Records の創立者フランソワ・ザラカインの耳にも入り、デビューが決まったという現代のシンデレラ・ストーリーの体現者として知られている。
この二人のデュオは2019年にドイツのルートヴィヒスブルク音楽祭でダヴィッド・ヘルベックがカミーユ・ベルトーを指名し、初めてセッションしたところから始まった。
David Helbock – piano
Camille Bertault – vocal