日本が誇る次世代アコーディオン奏者・中山うりのタイムレスな名盤・デビュー作2007年『DoReMiFa』

音楽はカルチャーであり、エンターテインメントである。
そうである以上、流行や時代性が反映されるのは必然であるともいえる。
一方、音楽は芸術でもある。
ベートーベンやバッハ、シューベルトといったクラシック音楽はそれこそ何百年という単位で人々に愛され続けており、素晴らしい芸術はタイムレスに生き続ける。

今なお数多くの作品を残し続ける中山うりの作品の中でもデビュー作を今回取り上げた理由。
それこそまさに時代に流されず、色褪せることのない普遍的な「音」が記録された盤。それが今回紹介する中山うりのデビュー作『DoReMiFa』なのである。

『DoReMiFa』全曲紹介

1.月とラクダの夢を見た

優しいギターイントロから始まる1曲目にふさわしい楽曲。再生した瞬間に空気を一変させる、楽曲としての強度を持った中山うりの代表曲と言ってもいい1曲。間奏で聞くことの出来るアコーディオンの音色や、淡々と、しかし淡白でもなく感情的でもない絶妙なボーカル、絵本の中に迷い込んだようなおとぎ話のような歌詞と世界観が見事に絡み合い、聴くものを引きずり込んでいく。

2.夏祭り鮮やかに

アコーディオンの音色がより強調されたボサノヴァ調の楽曲。途中、語りも入るなど1曲目同様、「中山うりらしい」代表的な楽曲。児童文学が原作の映画『あの空をおぼえてる』の挿入歌でもあり、どこまでも優しい音色が印象的。

3.早起きラジオ

歌詞、リズム、アンサンブル、すべてにおいて清々しい清涼感溢れる楽曲。タイトル通り、朝イチで聴くと元気をもらえる本曲はサブスクでは聴くことが出来ない。

4.マドロス横丁

ジプシー・スウィング、ミュゼット、タンゴなど世界中のアコーディオン音楽をブレンドした」と称される所以ともいえるジプシージャズ曲。本作の数年前にフランスのアニメーション映画『ベルヴィル・ランデブー』が注目されたことで日本でも聞こえてくるようになったジプシージャズに対しての日本からの回答と言っても過言ではない名曲。

5.Blu-Voyage

(3)(4)とアップテンポの曲が続いた中で差し込まれる(1)(2)寄りのミッドテンポ曲。Ann Sallyのような優しくたおやかなメロディラインが印象的。

6.ばいばいどくおぶざべい

中島みゆきの同名曲のカバー。本曲以外にもあがた森魚、石原裕次郎、高田渡などの楽曲をカバーするなど、ジプシーをはじめとしたワールドミュージックをなぞるだけでなく、フォークや歌謡曲など日本の音楽のフィルターを通して生み出される音楽こそ、中山うりの楽曲の面白さの真髄であり、唯一無二であると言える。

7.ノスタルジア

(2)「夏祭り鮮やかに」と対になるサマーサウンド。(2)が夏の楽しさやワクワク、現在進行形であるのに対し、本曲はタイトル通り、夏が終わる・終わってしまった過去形の寂しさのようなものを感じ取ることが出来る。本当にこういった楽曲にアコーディオンの音色は良く似合う。

8.走る女

アルバムの最後を飾るアップテンポなアコーディオン曲。本作品最もアコーディオン色が強く、エキゾチックな印象ながらもキラキラメルヘンな感触もある不思議なアウトロ的楽曲。

サブスクでは聴くことが出来ない『DoReMiFa』

現在、中山うり作品のほとんどはサブスクで聴くことが出来るが、この デビュー作『DoReMiFa』はサブスクで聴くことが出来ない。特に(3)「早起きラジオ」(6)「ばいばいどくおぶざべい」は他のシングルやアルバムにも収録されておらず、是非音源の入手をお勧めしたい。

また、地方公演が多いのも特徴で、カフェやバーなどだけでなく、教会やお寺など様々なところでライブを行うユニークな活動を続けている中山うり。

気づいたらあなたの街のすぐ近くでこの素晴らしいサウンドが奏でられているかもしれない身近さもまた、彼女の魅力なのかもしれない。

サブスクで聴くことの出来るデビューEP。(2)「夏祭り鮮やかに」(3)「早起きラジオ」(6)「ばいばいどくおぶざべい」は未収録。

プロフィール

埼玉生まれのシンガーソングライター。
主に子供の頃に触れた様々な経験や感触、東京での日々の暮らしをミクロな視点で音楽表現することをモットーに音楽制作。
アコーディオンやトランペット、ギターなども演奏。
バンド編成からギターの弾き語りまで様々なスタイルでライブをする。
幼少期に父親の影響でジャズやラテン音楽、歌謡曲を耳にして育つ。学生の頃はブラスバンドや吹奏楽でトランペットを担当。

シンガーソングライターとしては2000年ステージデビュー、後にs-kenプロデュースのもと、2007年〜2011年の間にアルバム6枚(EPを含む)、シングル2枚、ライブDVD 1枚をリリース。

2011年、自身作詞・曲の「回転木馬に僕と猫」がNHK「みんなのうた」でオンエア。
2012年よりセルフプロデュースでアルバムを数多くリリースしている。

2016年Eテレ(教育)「シャキーン!」番組内の「シャキーン!ミュージック」にて書下ろしの楽曲「モシモシーソー」がオンエア。

2019年BSプレミアムで放送されたドラマ「捨て猫に拾われた男」では主題歌、劇中音楽を担当。
現在、東京北区の全15箇所の図書館の閉館音楽に「石神井川であいましょう」が採用されている。
2020年リリースされた髙城晶平(cero)のソロプロジェクト“Shohei Takagi Parallela Botanica“の1stアルバム「Triptych」にコーラス等で参加。
最新作は2020年リリースの11thアルバム『11』と初のライブアルバム『SAMSA』をリリースしている。

デジタル配信先行で『おそい光』『ホイアン』、『くらげ』他をシングルリリース。
Officcial Web Siteより )

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