イスラエル新星ピアニスト/作曲家ナダフ・ベルコヴィッツ、尋常でない熱気で魅せる圧巻のデビュー作

Nadav Berkovits - Waking the Heart

イスラエルジャズの新星ナダフ・ベルコヴィッツのデビュー作

親の世代から子の世代へと脈々と受け継がれつつ、少しも進化を止めないイスラエルのジャズ・シーンから、また新たな逸材が現れた。その彼はイスラエル・エルサレムを拠点とするピアニスト/作曲家、ナダフ・ベルコヴィッツ(Nadav Berkovits)。2021年にリリースされたデビュー作『Waking the Heart』は、ピアノトリオを中心とし、数曲でサックス、トランペット、ギターのゲストも加わり、ストレイト・アヘッドなジャズからスピリチュアル・ジャズ、アフロ・キューバン・ジャズ、北アフリカ音楽や中東音楽の影響の色濃い所謂“イスラエル・ジャズ”まで、さまざまな顔を覗かせつつ熱気を深く纏った見事な演奏を聴かせてくれる。

本作のプロジェクトはナダフ・ベルコヴィッツがエルサレムの音楽学校を卒業し、2018年にキューバを旅したときから始まった。彼はそこで音楽や文化の新しい世界に触れ、その経験が彼を内なる探求へと導いたという。いくつかの曲はハバナで書かれ、ほかのいくつかはインド、エジプトのシナイ、そしてエルサレムで書かれた。

ゲストとしてイエメン・ブルース(Yemen Blues)での活動などで知られるトランペット奏者イタマール・ボロホフ(Itamar Borochov)、イスラエルや欧州で活躍するサックス奏者のユヴァル・ドラブキン(Yuval Drabkin)、新進気鋭のギタリストのオムリ・バール・ギオラ(Omri Bar Giora)を迎えたセクステット編成で演奏される(1)「The Dream」から、尋常ではない熱量に圧倒される演奏が繰り広げられる。

9分半におよぶ白熱した演奏(1)「The Dream」

スピリチュアル・ジャズの流れを汲んだ演奏は続く異国の都会の旅情を感じさせる(2)「Ras」にも引き継がれ、この冒頭の2曲だけで今作が音楽的に非常に豊かな傑作であることを確信させてくれる。

演奏を支えているベーシストのオズ・エヒエリ(Oz Yehiely)、ドラマーのシャイ・ユヴァル(Shai Yuval)の反応も素晴らしい。それぞれニツァン・トリオ(Nizan Trio)、フレンディ(Friendy)というグループで活躍する若手の注目株で、ともにじっとしていられない性格なのかやたらと手数の多いフレーズを連発。ダイナミックなナダフ・ベルコヴィッツのピアノをしっかりと煽り、アンサンブルをより熱いものにする。

印象的な中東ジャズ(2)「Ras」には、トランペッターのイタマール・ボロホフ(Itamar Borochov)がゲスト参加している。

アルバムは多様なジャズを発信するロンドンのレーベル、Ubuntu Musicから2021年末にリリースされた。

Nadav Berkovits 略歴

音楽一家に生まれたナダフ・ベルコヴィッツは、幼い頃からジャズ、西洋のクラシック、アフロ・キューバンの音楽、そしてイスラエルや中東の音楽に親しみながら育ち、すぐにこうした多様なジャンルを自ら探求し演奏するようになった。

テルアビブ音楽院のニュースクール・ジャズ・プログラムとエルサレム音楽アカデミーを卒業後、アフロ・キューバンの音楽と文化を知るためにキューバに渡り大きな刺激を受け作曲に専念。2020年、ほかの多くの音楽家たちと同様にライヴ活動の中止を余儀なくされ、これまでの活動の集大成として本作『Waking the Heart』の制作に取り組み始めた。

これまでに紅海ジャズフェスティバル、エルサレム・ジャズフェスティバル、マルセイユ・ジャズフェスティバルなど国内外のさまざまなステージにサイドマンとして出演し、多くの経験を積んできている。

Nadav Berkovits – piano
Itamar Borochov – trumpet (1, 2)
Yuval Drabkin – tenor saxophone (1, 5, 7)
Omri Bar Giora – guitar (1, 4)
Oz Yehiely – bass
Shai Yuval – drums

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