ディアスポラの切なる想いと願いを歌うBlack Ox Orkestar 再結成!15年ぶりの新譜リリース

Black Ox Orkestar - Everything Returns

再結成されたブラック・オックス・オーケスター 15年ぶり新作

ユダヤ系のディアスポラである4人のメンバーで構成されたカナダのバンド、ブラック・オックス・オーケスター(Black Ox Orkestar)が実に15年ぶりとなる新作『Everything Returns』をリリースした。バンドは2000年にモントリオールで結成され、2006年までに2枚のアルバムをリリースしていたが同年に解散。今作は2021年に再結成されてから最初の作品となる。

歌詞はこれまでの作品同様、かつて東欧のユダヤ人によって話されていたがナチスの弾圧によって話者が激減し、現在は北米に移住したユダヤ人を主とし400万人ほどの話者がいるといわれているイディッシュ語で歌われる。故郷を追われた難民、ファシズムや排他的なナショナリズムの復活という現代社会が抱える問題と、モダニストのイディッシュの歌と詩を結びつける試みが今作のテーマである。

サウンド面はスコット・ギルモア(Scott Gilmore)の憂いを帯びたヴォーカルにピアノ、ツィンバロム、インディーロックやポスト・クラシカルの分野で活躍する紅一点のジェシカ・モス(Jessica Moss)のヴァイオリンとヴォーカル、クラリネットやギターを担当するガブリエル・レヴィーネ(Gabriel Levine)、そしてポストロック・バンド、ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラー (Godspeed You! Black Emperor)などのメンバーとしても知られるベースのシエリー・エイマー(Thierry Amar)による柔軟なアンサンブルが特徴。
東欧のクレズマーを礎とする楽曲も美しさの中に行き場のない哀しみや怒りを内包し、強い訴求力を持つ。

チューバやトランペットのゲストを迎えたバルカン音楽(3)「Oysgeforn / Bessarabian Hora」、悲しみに満ち、ツィンバロムの音色が弔いの匂いを漂わせる(5)「Skotshne」、彼らの故郷への強い想いが伝わってくる圧巻の(8)「Moldovan Zhok」などバラエティーに富みながらも、その根底には社会や政治に対する主張が一貫して表現されている。

(3)「Mizrakh Mi Ma’arav」

ジャケットにはヘブライ文字のアレフベート(アルファベット)の18番目の文字であり、“正しい人”を意味するצ(ツァディ)が象徴的にデザインされている。

この作品は歴史に翻弄されてきた人々による、単なる音の表現にとどまらない深い意味を持った真の“ディアスポラ音楽”だ。スコット・ギルモアは虐殺や移住による文化の消失をなんとか防ぎたいとイディッシュ語を学び、アイデンティティの探求を続けてきた。その結果はアルバムタイトルに冠された“すべては元の場所に戻る”という言葉に帰結している。

聴けば聴くほど、彼らの切なる想いと願いが痛いほどに伝わってくる素晴らしい音楽だ。

(1)「Tish Nign」

Black Ox Orkestar :
Thierry Amar – double bass
Scott Gilmore – cimbalom, piano, vocals
Gabriel Levine – clarinet, bass clarinet, guitar, vocals
Jessica Moss – violin, vocals

Featuring :
Pierre-Guy Blanchard – drums (2), percussion (3, 5)
Nadia Moss – vocals (2)
Julie Houle – tuba (3)
Julie Richard – tuba (3)
Craig Pedersen – trumpet (3)

Black Ox Orkestar - Everything Returns
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