モロッコ出身ウード奏者モハメド・アハダフ 4th『Ana W’inta』
アラブ音楽やアンダルシア音楽に精通するモロッコ出身のウード奏者/作曲家モハメド・アハダフ(Mohamed Ahaddaf)の通算4枚目のアルバム『Ana W’inta』がリリースされた。2019年に加入した中東や北アフリカ音楽を専門とするオランダ・アムステルダム拠点のマルムーシャ・オーケストラ(Marmoucha Orchestra)とともに作り上げた作品で、15人ほどの豊かなアンサンブルで個性的なアラビック・ジャズを聴かせてくれる興味深い作品だ。
オーケストラの音楽監督を務めるのはイスラエルとイラクにルーツを持つピアニストのアヴィシャイ・ダラシュ(Avishai Darash)。収録曲の作曲はモハメド・アハダフが中心となり、曲によってはアヴィシャイ・ダラシュやアルメニア系イラン人ベース奏者のアリン・ケシシ(Arin Keshishi)、スペイン系のオーボエ奏者マリペパ・コントレラス(Maripepa Contreras)が共作者としてクレジットされている。
15人編成のオーケストラはウードとダラブッカ以外は西洋楽器という構成だが、やはり曲調も微分音や特徴的な旋法を用いたアラブ〜アンダルシア音楽ということもあり、ウードとダラブッカがアンサンブルのサウンドの中心的な役割を果たしている。
西洋古典音楽的な弦楽四重奏による前奏で始まる(2)「Ma’ak」は、開始50秒後にダラブッカとウードが演奏に加わると一気にアラブの世界へ。緻密なアレンジの中間部、ウードのソロを挟み後半はアヴィシャイ・ダラシュによる白熱のピアノソロ。この後半部ではベース、エレクトリック・ギターやチェロによる低音も厚みを増し、さながら“プログレッシヴ・アラビック・ジャズ・オーケストラ”とでも呼びたくなる演奏が繰り広げられる。
ラテン音楽の要素を加えた(6)「Bladi」は明るく快活な印象だが、9拍子を軸にしたリズムはやはり一筋縄ではいかない。
アルバムの曲はどれもそれぞれ個性的で、様々な音楽文化の混淆による新たな文化の創出を感じさせてくれるものばかり。まだ見ぬ異国を旅する気分で聴きたい一枚だ。
Mohamed Ahaddaf 略歴
モハメド・アハダフは1975年にモロッコ北部のジブラルタル海峡に程近い歴史ある街テトゥアンに生まれた。テトゥアンの音楽院を卒業し、モハメド・ラルビ・テンサマーニ(Mohammed Larbi Temsamani)率いるアンダルシア楽団ではソリストを務めた。
2010年にウード、ピアノ、ベース、パーカッションの編成で「アハダフ・カルテット(Ahaddaf Quartet)」を結成。以来、アムステルダムを拠点に平均律の西洋音楽に微分音を頻繁に用いるアラブ音楽を融合する試みを続けている。
これまでに『Nasim al Andalous』(2012年)、『Spoken Soul』(2014年)、『Seasons』(2016年)の3枚のリーダー作をリリースしている。
Mohamed Ahaddaf – oud
Maaike van der Linde – flute
Maripepa Contreras Gamez – oboe
Antonio Moreno Glazkov – trumpet
Efe Erdem – trombone
André Flipe Lima – violin
Julia Rusanovsky – violin
Oene van Geel – viola
Lucas Stam – cello
Avishai Darash – piano
Jessy Hay – guitar
Arin Keshishi – bass
Emad Ghajjou – darbuka
Udo Demandt – percussion
Yoran Vroom – drums