ジュリア・ブランコの2ndアルバム『Baby Blue』
シコ・ネヴェス(Chico Neves)がプロデュースし、絶賛を浴びたデビュー作『Soltar os Cavalos』から5年。ブラジル・ミナスジェライス州のシンガーソングライター、ジュリア・ブランコ(Julia Branco)の新作『Baby Blue』がリリースされた。その5年間に起こった世の中や自身の変化がアルバムのひとつのテーマとなりつつも、デビュー作でも見せた新鮮だがどこか懐かしさも感じさせる彼女の音楽的センスが発揮された素晴らしい作品だ。
当初は前作同様にMPBの重鎮シコ・ネヴェスにプロデュースを依頼する予定だったが、彼が多忙だったためアナ・フランゴ・エレトリコ(Ana Frango Eletrico)にプロデュースを依頼。その結果としてサウンドにも驚くような変化がもたらされており、よりポップに鮮明になったリズムと随所に散りばめられた新鮮なアイディアがソングライター兼歌手としてのジュリア・ブランコの瑞々しい魅力を引き立てている。
冒頭の可愛らしいトラック(1)「In / to Cora」は今作のテーマである“母性”の宣言だ。
新型コロナによるパンデミックの最中、彼女は初めて妊娠・出産をし、娘コーラ(Cora)との深い愛情の結びつきを得た。つづく(2)「Baby blue」では無垢で小さな命の隣で世界の神秘を再発見する母親の喜びを歌っている。
(3)「Fim e começo」(終わりと始まり)は彼女が妊娠3ヶ月の頃に書かれた曲で、激しいつわりの中で感じた幾つもの感情、吐き気、恐怖と興奮、そして喜びが表現されている。“道が開ける”という感覚がよく表れている曲だ。
(4)「Silêncio」はジュリア・ブランコが初めてギターで書いた曲で、シンプルなコードと、それに合わせて自然に出てきたという歌詞で綴られている。どこか郷愁を誘うキャッチーなブラジリアン・ロックだ。
(6)「Infinito」はアルナウド・アントゥネス(Arnaldo Antunes)の曲。ジュリア・ブランコが彼女のデビュー作にも多大な貢献をしてくれたアルナウドに妊娠を報告すると、アルナウドは未発表の曲のデモを5曲も送ってくれたのだという。その中から最も魅了されたのがこのInfinito、つまり“無限”という曲で、詩的な循環は産褥期の始まりの感覚を彼女にもたらした。
(8)「Lost in the paradise」はカエターノ・ヴェローゾ(Caetano Veloso)のカヴァー。ジュリア・ブランコはチアゴ・ブラガ(Thiago Braga)らとともに彼女の“最大のアイドル”であるカエターノの楽曲を再解釈するバンド「Todos Os Caetanos do Mundo」(2009年結成)で歌手としてのキャリアをスタートさせており、現代的ながらどこかサイケロックの響きを持ったサウンドからはジュリア・ブランコとアナ・フランゴ・エレトリコの共通の影響源であるトロピカリアの精神が感じられる。