ヨーロッパ・ジャズの巨匠3人による“限りなく深い音楽”
ピアニストのエンリコ・ピエラヌンツィ(Enrico Pieranunzi)、ベース奏者イェスパー・サムセン(Jasper Somsen)、そしてクラリネット奏者ガブリエーレ・ミラバッシ(Gabriele Mirabassi)。長年にわたって欧州ジャズの高いクオリティと抒情性の代名詞的な存在だった巨匠3人によるトリオ作『Traveller’s Ways』がリリースされた。
夜の静けさの中で、ひとりでじっくりと耳を傾けるにこれほど最適なアルバムはなかなかないだろう。トリオのリーダー的存在のイェスパー・サムセンが低音を安定して支えながら、エンリコ・ピエラヌンツィが“侘び寂び”すら感じさせる哲学的なハーモニーを乗せ、ガブリエーレ・ミラバッシが自由に流麗なソロを吹く。音楽のすべての瞬間瞬間に、達人の達人たる所以があり、おそろしいほど自然な風格に圧倒されながらもリラクゼーションをもたらす不思議なリスニング体験。ひとことで言うなら、限りなく“深い”音楽がここにはある。
楽曲は3人の共作である(8)「Traveller’s Tale」と(11)「Mysterious Ways」を除きすべてイェスパー・サムセンによるオリジナルで、ピエラヌンツィ&サムセンの2022年のデュオ作『Voyage in Time』の続編的な意味合いもありそう。
個人的にはこのトリオで、ピエラヌンツィが書く究極的に耽美な楽曲の演奏も聴いてみたかったところだが、それは今後の楽しみとしておこう…。そんな贅沢な注文をしたくなるのも、彼らの音楽への揺るぎない信頼があるからだ。
Enrico Pieranunzi 略歴
ピアノのエンリコ・ピエラヌンツィは1949年イタリア生まれ。父親はジャズギタリストで、エンリコもまた幼い頃から音楽を学んだ。クラシックのピアニストとして1973年に音楽の教授となったが、1975年には教育現場を去り、ジャズのトリオや小規模アンサンブルで演奏するようになった。
これまでに数多くの作品を録音しており、ジム・ホール(Jim Hall)、マーク・ジョンソン(Marc Johnson)、チャーリー・ヘイデン(Charlie Haden)、ジョーイ・バロン(Joey Baron)、チェット・ベイカー(Chet Baker)といったレジェンドたちと演奏を共にしてきたイタリアの至宝である。
Jasper Somsen 略歴
ベースのイェスパー・サムセンは1973年オランダ生まれ。ユトレヒトとアムステルダムの音楽院でジャズとクラシックのコントラバスを学んでいる。初リーダー作は2010年の『Dreams, Thoughts & Poetry』で、これはピエラヌンツィの楽曲をリスペクトしカヴァーしたもの。これまでにピエラヌンツィのほか、ピーター・アースキン(Peter Erskine)、ジョーイ・カルデラッツォ(Joey Calderazzo)、ジェフ・バラード(Jeff Ballard)、ジャン=ミシェル・ピルク(Jean-Michel Pilc)といった欧米を代表するミュージシャンと演奏を共にしてきた。
2021年以来アーネムの芸術大学で教鞭をとるなど、現在は演奏とスタジオ制作の多忙なスケジュールを離れ、作曲と指導に時間の多くを割いている。
Gabriele Mirabassi 略歴
クラリネットのガブリエーレ・ミラバッシは1967年イタリア・ペルージャ生まれ。チェンバー・ジャズの第一人者としてこれまでに数多くのアルバムを発表しており、マーク・ジョンソン(Marc Johnson)、スティーヴ・スワロウ(Steve Swallow)、ジョン・テイラー(John Taylor)といった国内外の著名アーティストとの共演も多数。イタリアを代表するジャズレーベル、EGEAの看板アーティストとして知られている。
ブラジル音楽にも強く傾倒し、これまでにギタリスト/作曲家のギンガ(Guinga)や、ピアニスト/作曲家のアンドレ・メマーリ(André Mehmari)、ギタリストのセルジオ・アサド(Sérgio Assad)といったブラジルを代表する音楽家たちとアルバムを制作してきた。
実弟は人気ピアニストのジョヴァンニ・ミラバッシ(Giovanni Mirabassi)。
Enrico Pieranunzi – piano
Jasper Somsen – double bass
Gabriele Mirabassi – clarinet