現行ミナス音楽の最注目ピアニスト、IGARAのデビューEP
ミナスのほかの多くの若手器楽奏者たちの例に漏れず、非常に複雑かつ瑞々しい音楽を作り出す女性ピアニスト/作曲家イガーラ(IGARA)。2021年にBDMGヤング・インストゥルメンタル(BDMG Jovem Instrumentista 2021)を受賞し、その後2023年にミナスの器楽音楽で最も意味のある賞である第22回BDMGインストゥルメンタル(BDMG Instrumental 2023)を受賞した彼女のデビューEP『O Piano, os Cavalos e o Mar』は、哲学や文学の香りをも感じさせる非常に美しい作品だ。
アルバムにはイガーラのレギュラー・カルテットのメンバーであるタミリス・クーニャ(Thamiris Cunha)、ベースのカリル・ブリキ(Khalil Briki)、ドラムスのルーカス・ゴドイ(Lucas Godoy)のほか、2016年のBDMGインストゥルメンタル受賞者であるギタリスト/バンドリン奏者のマルコス・ルファート(Marcos Ruffato)が参加。古典と現代感覚が融合した技巧的構築美と、ジャズの理論的かつ直感的なアドリブ演奏が高度に織り重なる演奏を聴かせてくれる。
カルテットで演奏される(1)「Pirita」(黄鉄鉱)はイントロからスタッカート気味のピアノがグルーヴを生み出し、次のパートではエモーショナルな下降進行とピアノの不穏な不協和音の上でクラリネットが物憂げにメロディーを吹く。
5拍子と6拍子が組み合わせれた(2)「Brutal Delicadeza」と、アルバムタイトル曲(3)「O Piano, os Cavalos e o Mar」にはバンドリン/ギターのマルコス・ルファートが加わりクインテットで演奏。後者ではクラリネットとユニゾンするヴォイスなども加わり、ピアノやギターによる繊細なアルペジオと対比され豊かな叙情性を醸し出している。楽曲の構成は凝っており、その展開の中で様々な風景を喚起させる。
ラストの(4)「Prisma d’Água」はピアノ、クラリネット、ギターのトリオ編成。主役となるイガーラのピアノの音色はとにかく明瞭で、色彩感すら感じさせるほど。彼女のピアノにそっと寄り添い、表情豊かに奏でられるクラリネットやバンドリンも素晴らしい。
収録曲は全てイガーラによる作編曲。
アルバムのタイトルは“ピアノ、馬そして海”という意味で、これはポルトガルの詩人ソフィア・デ・メロ・ブレイナー・アンドレセン(Sophia de Mello Breyner Andresen, 1919 – 2004)の晩年の詩『Landscape』からインスパイアされている。
Sudden birds passed through the air
The smell of the earth was deep and bitter
And in the distance, the wide sea rides
Shooking their manes in the sand.突然に鳥たちが空を横切った
Sophia de Mello Breyner Andresen.
大地の香りは深くて苦い
遥か彼方では広い海が
砂の上でたてがみを振り乱す
“Landscape” (excerpt). 2001.
イガーラは、かつてポルトガル統治時代にダイアモンドの採掘で栄え、ユネスコの世界遺産にも登録されているミナスジェライス州中央部の街ディアマンティーナ(Diamantina)の出身。
このデビュー作は4曲のみのEPだが、収録作品の密度は非常に濃く、今後の活躍が楽しみなアーティストだ。
Igara – piano
Thamiris Cunha – clarinet
Khalil Briki – electric bass
Lucas Godoy – drums
Marcos Ruffato – 7-string guitar, bandolim