イスラエルの創造性溢れる鬼才YUZ新作『Emerald Pick』
デビュー作『Mono Moon』の驚くべき音楽性の高さに度肝を抜かれた、イスラエルのギタリスト/作曲家YUZことウリア・ウィツタム(Uriah Witztum)の2ndアルバム『Emerald Pick』がリリースされた。前作同様に、中東や地中海周辺の伝統音楽やジャズ、プログレッシヴ・ロックなどが複雑に入り乱れた彼の音楽は今回も驚きの連続だ。
今作には3つの宗教の聖地であるエルサレムに生まれ育ち、多様な文化に囲まれて育ったYUZ(このインタビュー記事を参照してほしい)の音楽に対する純粋な想いと、驚くべき創造性が凝縮されている。ご存知のとおり、中東は今危機的な状況の真只中だ。彼は戦時中にアルバムを送り出すことについて複雑な心境だと述べた上で、「このような暴力的な時代においては、音楽だけが言葉ではできないことをなし、人々の間に調和と愛をもたらすことができるのではないかと感じています」とFacebookの投稿で述懐している。
そして彼は、同じ投稿の中で「音楽は戦争に勝る(Music is bigger than wars)」ということを強調していた。私はこの言葉が気になったので、彼に直接コンタクトを取り、その想いを尋ねてみた。
本稿は、彼とのやり取りのなかで聞いた言葉を絡めながら展開する。
モダン中東スペースロック
アルバムの冒頭、(1)「Gladiola」からサイケロックと中東音楽の色濃い独特の音楽が展開される。YUZ自身“モダン中東スペースロック”と呼ぶこの音楽には不思議な落ち着きと高揚感が共存している。
「このアルバムは、ここに住むことの美しさと恐怖の両方から生まれました。 平和への信念を表現し、回復と癒しを望む私のやり方です」希望に手を伸ばすようなサウンドの中には、彼のそんな想いが詰まっている。
音楽は人々の間に横たわるあらゆる障壁を取り払うための手段だ。
事実、彼はイスラエル人でありながら、イスラム教徒が大多数を占め、国家としてのイスラエルに対し多くが反対の声を上げているトルコにいる多くのファンから、トルコに来て演奏してほしいという声をもらっている。この事実こそが「これまで以上にメディアやあちこちの政治指導者の邪悪な言説に対抗する音楽の力について雄弁に語っている」のだと言う。
アルバムは全編がインストゥルメンタル。
(2)「Winter Desert」、(3)「Kurd」と濃度の高い中東ロックサウンドが続き、バラードや変拍子の凝った楽曲も挟みながら、個人的には(6)「Dirt」から(7)「Arav」への流れはゾクゾクするものがある。
アルバム中もっとも高揚感のある楽曲(7)「Arav」はパーカッションやシンセのソロも素晴らしく、今作を象徴する1曲となっている。そしてラストの(8)「Slow Dance」にはどこか悲痛な叫びが垣間見えるように感じる。
「いずれはこのひどい戦争が終わり、平和が訪れることを願っている」
「人々はその先を見ることができ、そして見ている」と彼はいう。
「私が演奏している音楽には、イスラエル、トルコ、ギリシャ、アラビアの影響など、中東各地の色が入っています。これらすべての国や国民の間には長年にわたって不仲な関係があるけど、これらの要素を音楽的に組み合わせると、うまく機能して美しい作品を生み出すんだ。 音楽はおそらくこのあたりで最も人気のある芸術形式だから、これは芸術、特に音楽でのみ機能することなんだと思う」
彼は最後にこんな言葉を言ってくれた。
「戦争の状況そのものはもちろんひどいもので、これが続くのは本当に大変だし、この地域をバラバラに引き裂いている。いずれはこのひどい戦争が終わり、平和が訪れることを願っている」
YUZ (Uriah Witztum) – guitar, bass, bozouki, baglama, keyboards
Noam Oxman – keyboards
Yishai Swissa – keyboards
Noam Havkin – keyboards
Yonatan Haringman – keyboards
Lior Ozeri – bass
Yohana Rittemuller – violin
Gili Rivkin – violin
Zohar Barzilai – drums
Itay Ella – drums
Ariel Abitbul – percussion
Art by Guy Kosovski
Mix and master by Omer Mor