マティ・カスピとシャローム・ハノフ、以二大巨匠のライヴ作品
半世紀以上にわたってイスラエルのポピュラー音楽の大部分を形成してきた2人の巨匠、マティ・カスピ(Matti Caspi)とシャローム・ハノフ(Shalom Hanoch)が、それぞれの代表曲を取り上げ歌ったライヴアルバム『העיקר זה השירים (Live)』。
アルバムのタイトルは“大切なのは歌”の意味で、おそらくは同国のもう1人の巨匠、ヨニ・レヒテル(Yoni Rechter, יוני רכטר)の名曲「העיקר זה הרומנטיקה(大切なのはロマンス)」へのオマージュと思われる。
マティ・カスピの(1)「לא ידעתי שתלכי ממני(君が僕から去ると思わなかった)」や(4)「הנה הנה(Hine Hine)」、(6)「ילדותי השנייה(My Second Childhood)」や、シャローム・ハノフの(5)「אדם בתוך עצמו(A Man Within Himself)」、(10)「היה כדאי(It Was Worth It)」といった2人の大ヒット曲が多数収録されており、イスラエルロックの歴史が凝縮されたと言っても過言ではないほどの内容になっている。その証左に、オーディエンスの盛り上がり方も凄まじい。
2人は2018年に最初のコラボレーション活動を行っているが、その後はパンデミックもあり2人での活動は中断していた。この音源は2023年2月にテルアビブの文化ホールで開催されたコンサートを作品化したもの。
アルバムは2023年12月リリースされ、同年10月7日のハマスによるテロ攻撃でガザ地区に誘拐され殺害された音響技師ガイ・イルズ氏(享年26)に捧げられた。
イスラエル・ロックを代表する2人の巨匠
シャローム・ハニフ(ヘブライ語表記:שלום חנוך)は1946年にイスラエル中北部のキブツ・ミシュマロットに生まれた。 アリク・アインシュタイン(Arik Einstein)との共演などで知られ、イスラエル・ロックの創成期を支えたシンガーソングライターとして広く知られている。
子供の頃からバグパイプやマンドリンを演奏し、ロックに出会う前はクラシックやロシア民謡、ゴスペルやブルースなど幅広く音楽に触れて育った。12歳の時にギターを手にいれ、14歳頃から作詞作曲を始める。キブツで演奏していたバンドメンバーにはメイヤー・アリエル(Meir Ariel, מאיר אריאל)らのちに同国を代表する人気音楽家もいるような環境だった。兵役では音楽隊に配属。
1960年代後半、彼が書きアリク・アインシュタインに提供した曲が次々とヒット。 1970年代にはロックバンド、タムズ(Tamouz)で大成功を収めた。
マティ・カスピ(ヘブライ語表記:מתי כספי)はセルビアとルーマニアから移住してきた両親のもと、1949年にイスラエル北部のキブツ・ハニタで生まれた。幼少期から楽器の演奏を始め、15歳のころに作曲やアレンジを開始。ナハリヤの音楽院でピアノを学び、兵役では音楽隊に配属。その後はシンガーソングライターや作編曲家として音楽活動に専念し1970年代初頭から目覚ましい人気を獲得していった。
彼の音楽はジャズ、ロック、ブラジル、ラテン、バルカンなど幅広い音楽に影響を受けており、優れたハーモニー感覚、メロディー感覚が特徴的。これまでに1000曲以上を作曲し同時代以降のイスラエルの数多くの音楽家たちにも多大な影響を与えた。