『ラピュタ』からの引用も!カーボベルデと英国の物語を歌うカルメン・ソウザ新作『Port’Inglês』

Carmen Souza - Port’Inglês

カルメン・ソウザ、カーボベルデと英国の歴史を紐解く新作

カーボベルデにルーツを持ち、ポルトガルで生まれ現在はロンドンを拠点に活動するディーヴァ、カルメン・ソウザ(Carmen Souza)は11枚目のアルバムとなる新譜『Port’Inglês』(イギリスの港)で、イギリスとカーボベルデの繋がりに焦点をあて、8つの物語を歌っている。

ソダーデ1を感じさせるジャジーなモルナ(3)「Cais D’Port Inglês」では、英国が駐留していた時代の海の波を通じた文化的同化を描いている。カルメン・ソウザが4年間住んでいたロンドンの町、ウーリッジ・アーセナルからはかつてチャールズ・ダーウィンがカーボベルデへと航海した。

(3)「Cais D’Port Inglês」

(5)「Francis drum」で歌われる”フランシス”とは、イングランドの海賊フランシス・ドレイク2のこと。イギリスでは英雄と見做されると同時に、カーボベルデ人にとっては1578年と1585年に来週し略奪を繰り返した海賊である彼について歌っている。ドレイクは世界周航の際にドラムを持参していたと言われており、パナマ近くの海域で亡くなる直前に部下たちにドラムをイングランドに持ち帰るように伝え、国が困難に陥った時に叩き鳴らすことで再び自らの魂が蘇りイングランドを救うだろうと語ったという。

久石譲作曲のジブリ映画『天空の城ラピュタ』の主題歌である「君をのせて」のオルゴールが象徴的に引用される(8)「Moringue」では、同じ土地で異なる言語を使用することが如何に相互理解を阻害し、個人間のつながりを失わせるかを歌っている。

イントロやアウトロにオルゴールの「君をのせて」が引用されている(8)「Moringue」

この作品には、カーボベルデとイギリスという二つの国に深く関係するアーティストであるカルメン・ソウザにしか成し得なかったであろう研究の成果が現れている。彼女の祖父がそうであったように、侮蔑的に扱われる港湾労働者の歌(4)「Ariope!」(急げ! =Hurry up! が訛ってクレオール化した言葉)や、植民地主義への疑問と怒りを呈する(2)「Pamodi」のような歌のほかに、英国とカーボベルデの深い絆の側面を伝える(6)「Amizadi」のような歌をも歌う。物語の多くには二面性があり、どちらか片方から伝え聞くことだけを信じるのは危険だということを、彼女はよく知っている。

Carmen Souza 略歴

カルメン・ソウザはカーボベルデ出身の両親のもと、1981年にポルトガルのリスボンで生まれた。クレオール語を話し、カーボベルデ料理を食べるという家庭環境で育ち、彼女の子ども時代はカーボベルデの音楽と文化、そして旧ポルトガル植民地であったアンゴラ、ブラジル、モザンビーク、サントメの音楽と文化に満ちていた。
商船員の父親は彼女に英語とドイツ語を学ぶべきだと勧めたが、幼少期から聖歌隊で歌うことが大好きだった彼女は大学を1年で中退し、音楽の道を歩むことを決意した。

1999年からオーディションを通じて知り合ったベーシスト/作曲家のテオ・パスカル(Theo Pas’Cal)とパートナーを組み始め、モルナやフナナ、コラデイラといったカーボベルデの音楽にジャズなどの要素を加えた独自の音楽を探求し始めた。2005年のデビュー作『Ess e Nha Cabo Verde』や2008年の2nd『Verdade』は高く評価され、ソウルフルな歌声と、ソフィスティケイトされたジャジーな西アフリカ音楽という独自性で彼女の名声を高めた。

これまでに10枚以上のアルバムをリリース。学術誌『アフリカ・トゥデイ』に“ソウル・ディーヴァの声”と評価されるなど、独自の地位を築いている。

  1. ソダーデ(sodade)…ポルトガル語のsaudade(≒郷愁)に該当するカーボベルデ・クレオール語。 ↩︎
  2. フランシス・ドレイク(Francis Drake)…16世紀の航海者、海賊。イングランド人として初めて世界一周をしたりとその功績からイギリスでは英雄とみなされる一方で、彼の海賊行為により苦しめられていたスペイン人からは悪魔の化身である「ドラコ」(ドラゴン)の呼び名で知られている。 ↩︎

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