Música Terra が選ぶ 2024年ベストアルバムTOP10【DJ mitsu編】

Música Terra(ムジカテーハ)ライターDJ mitsuが選ぶ2024年のベストアルバム。
基本、当サイトで紹介してきたもの中心ではありますが、取り上げきれなかった作品もここではPick Up。
今年はあれこれ聴き漁るというよりは気に入ったものをひたすら聴いていた印象。そして、音そのものと言うよりかは、そのメッセージ性や楽曲の背景がしっかりしたものにより傾倒していたように思えます。
そういった意味ではかなり趣味嗜好に偏った年とも言えますが、とはいえ、ここに挙げたのは間違いなく「いい音楽」。

今年1年お世話になった作品を振り返っていきましょう。

第10位:THE FORCE / LL Cool J(アメリカ)

“Frequencies of Real Creative Energy”のタイトルを冠するLL Cool Jの最新作。
ア・トライブ・コールド・クエスト(A Tribe Called Quest)のQ-Tipをプロデュースに迎え、LLのハードコアなラップにハービー・ハンコック(Herbie Hancock)をはじめとしたサンプリングなど、最新版オールドスクールとも言うべき”らしさ”が詰まった一枚に仕上がっている。

Pick Up:「Murdergram Deux」

エミネム(Eminem)を迎えた豪華コラボ曲。エミネムのクセのある高速ラップをLLが完全にトレース。キャリア40年のベテランでありながら、「学び直し」を宣言しているLLのストイックさを改めて感じることが出来る一曲となった。

第9位:TORI. / Tori Kelly(アメリカ)

アメリカンアイドル出身のシンガーソングライター、トリー・ケリー(Tory Kelly)の通算5枚目となるアルバム。日本ではあまり知られていないが、映画『Sing』の象の人と言えばわかるだろうか(吹き替え版はMisiaが担当)。上述の通り、圧倒的な歌唱力と表現力を武器に、本作では00年代のR&Bの雰囲気をまとったイノセントな歌声を聴かせてくれる。

Pick Up:「diamonds」

アシャンティ(Ashanti)チャーリー(Charlie)を思わせるクラブ受けするリズムとスイートなボーカルが心地よい1曲。個人的に今年1番現場で回した曲でもあります。

第8位:No More Water: The Gospel of James Baldwin / Meshell Ndegeocello(アメリカ)

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今年も暑かった夏。アフリカ系アメリカ人の思想家・ジェームズ・ボールドウィン(James Boldwin)にインスパイアされたミシェル・ンデゲエチェロ(Meshell Ndegeocello)の熱い想いが音楽というフォーマットに乗って届けれられた”読む音楽”。ジェームズ・ボールドウィンのドキュメンタリー映画『私はあなたのニグロではない』も含め、考えさせられた作品と言える。

Pick Up:「On The Mountain」

タイトル通りボールドウィンの処女作である『山にのぼりて告げよ』(Go Tell It on the Mountain)からインスパイアされたと思われる楽曲。透き通るようなファルセットと力強いボーカルを使い分けるジャスティン・ヒックス(Justin Hicks)の表現力も相まって、音楽性・メッセージ性ともに高い楽曲に仕上がっている。

第7位:TYLA / Tyla(アメリカ)

Summer Sonicで来日も果たした南アフリカのダンスミュージック、アマピアノを出自としたタイラ(Tyla)のメジャーデビューアルバム。

アメリカ、日本のみならず、フランスなど、行く先々でヘビロテされていた「Water」をはじめ、透明感溢れる楽曲にダンスリズムが組み合わさることで心地よさと音楽の楽しさを同居させたR&B,POPS作品の中では特徴的な異色の作品。

Pick Up:「On and On」

アマピアノなど、ダンスミュージックに注目が集まりがちなTylaのボーカリストとしての魅力が詰まったR&B楽曲。抑えたボーカルと表現は2000年代のマライア・キャリーを思わせる。

第6位:Jonah yano & The Heavy Loop / Jonah yano(カナダ)

広島生まれの日系カナダ人SSW、ジョナ・ヤノ(Jonah yano)の3枚目のアルバム。
繊細なボーカルやローファイな音作り、温かなメロディやギターの音色と、8位に挙げたミシェル・ンデゲオチェロの作品とは対照的な”ほんのり温かい”作品。
年明け1月には来日公演が予定されているなど、来年以降も引き続きお世話になりそうな一枚だ。

Pick Up:「Concentrate」

控えめなピアノやギター、ドラムをバックに、ギリギリ主張しない押さえつけるようなボーカルが続く前半から、一気に爆発する後半のカタルシスが気持ちいい、ドラマチックな一曲。

第5位:Star of Spring / Anna Greta (アイスランド)

Anna Gréta - Star of Spring
Anna Gréta – Star of Spring

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安心・安定のドイツのACTレーベルから発表されたアンナ・グレタ(Anna Greta)の 2024年作。ACTデビューとなった前作に比べ、よりストレートに響くピアノの音色とボーカルが印象的な本作は、自身初のプロデュース作とのこと。ジョナ・ヤノに続き、深く考えることなく身を委ねることが出来る没入感のある良作に傾倒した本年を象徴する一枚。

Pick Up:「Catching Shadows」

跳ねるような鍵盤タッチとメロディに狂おしいボーカルがエモーショナルな本曲。途中の変調など、比較的シンプルな楽曲構成の本作において、非常に印象的かつクオリティの高い1曲。Q-Tipあたりが好きそうなピアノフレーズが随所に見られるのも面白い。

第4位:Love Heart Cheat Code / Hiatus Kaiyote (オーストラリア)

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オーストラリアのフューチャー・ソウルバンド、ハイエイタス・カイヨーテ(Hiatus Kaiyote)の4枚目となる最新作は、架空のスーパーLHCCを舞台とした彼女ら自身初の試みと言っていいコンセプトアルバム。各楽曲をスーパーに並ぶ商品と見立て、それぞれにMVではなくビジュアルシンボルをデザインするなど、バンドが持つ楽曲の良さはそのままに、こだわり抜いた作品に仕上がっている。

Pick Up:「Dimitri」

前述の通り、全体的にスーパーマーケットのような多様な楽曲が並ぶ中、最も今までのハイエイタス・カイヨーテらしさを味わうことが出来る1曲。中毒性の高いネイ・パーム(Nai Palm)の幅広い音域(特に低音)のボーカルや、それに呼応するようにビートを刻むバンドのアンサンブルは必聴。

第3位:Jour 1596 / Hildegard (カナダ)

モントリオールを拠点とするSSWのヘレナ・ダランド(Helena Deland)と作曲家Ouriによるデュオ、Hildegardの約4年ぶりとなるアルバム。Ouriの持つ前衛的なサウンドが比較的前面に出ていた前作『Hildegard』に対し、ヘレナのボーカルにより焦点が当たった本作は、彼女のアンニュイな歌い口も含め、落ち着きのある大人な作品に。ランクインしたジョナ・ヤノ然り、今年はカナダ作品の奥深さが印象的だった。

Pick Up:「Bach in Town」

アルバムの幕開けを告げる楽曲。ビート、ボーカル、アレンジ、全てが控えめかつ上品に練りこまれており、熟成されたワインのように濃厚な3分半が、前作との圧倒的な違いを見せつけてくれた。

第2位:Cowboy Carter / Beyoncé (アメリカ)

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現代のスーパースター・ビヨンセ(Beyoncé )が発表したタイトル通りのカントリーアルバムは、クロスオーバーという簡単な話以上に、ビヨンセの覚悟とメッセージが詰まった、世に問う問題作。作品全体の構成、楽曲としての完成度、全てにおいて完璧な本作は、音楽が本当に世界を変えられるんではないかという期待と感動までもたらしてくれる。何度聞いても飽きが来るどころか、新たな視点や発見をもたらしてくれる歴史的アルバム。

Pick Up:「AMERICAN REQUIEM

本作の幕開けを静かに告げる、ジョン・バティステ(Jon Batiste)とノー・I.D.(No I.D.)がプロデュースを担当し、クイーン(Queen)のような多重コーラスによる5分におよぶ大曲。なお、最終曲の「AMEN」の最後のフレーズと本曲の冒頭のフレーズは繋がっている本曲はイントロ的な楽曲として見過ごされがちだが、全27曲という大作である本作を象徴する1曲であり、全てがこの曲につながっているとも言える。

第1位:All Black Everything / Amy Gadiaga (イギリス)

Amy Gadiaga - All Black Everything
Amy Gadiaga – All Black Everything

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パリ生まれロンドン在住のベーシスト/シンガーソングライター、アーミ・ガジャガ(Amy Gadiaga)のデビューEP。楽曲の持つ技術・熱量・予想できない展開など、全てが衝撃的であり、2024年最も聴いたであろう作品。メッセージ性や作品の全体の持つパワー、影響力で言えばビヨンセに軍配が上がるが、何より音楽を”楽しむ”姿勢が前面に出た本作が個人的には最も響いた作品だった。

Pick Up:「Paloma Negra」

ベーシストととしての彼女にフォーカスを当てるならば、やはりこの曲だろう。自身のルーツであるアフリカ(ガンビア、セネガル、マリ)のようなリズムに有機的に絡み合うベースはソロパートも含め、全編通じて様々な表情を見せてくれる。

いかがでしたでしょうか。
今年は例年取り上げていた日本勢・韓国勢がランクに入ってこなかったことと対象的に、カナダのアーティストが2組も入ってくるなど大躍進を見せました。
また、R&Bに関してはタイラをはじめ、トリー・ケリー、ビヨンセなど、新人からベテランまで良作が増えてきており、00年代のようなR&Bの復権が近いように思えます。

来年はまたどんな「いい音楽」と出会えるのか。
これからもMúsica Terra(ムジカテーハ)およびXにて発信をしてまいりますので、皆さんの音楽ライフの一助になれば幸いです。では!

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