ジョアン・ジルベルトの末娘ルイーザ、デビュー!『Loulu Gilberto』で垣間見せた”父と娘のリビングの記憶”

Loulu Gilberto

ロウル・ジルベルト、父との想い出を手繰り寄せる珠玉のデビュー作

おそらく、“ボサノヴァ第二世代・最後の原石”の、淑やかながら輝かしいデビューだ。
2004年生まれの21歳、ロウル・ジルベルトLoulu Gilberto, 本名:Luísa Carolina Gilberto)の初アルバム『Loulu Gilberto』が2026年5月末にリリースされた。ジョアン・ジルベルト(João Gilberto, 1931 – 2019)を父にもつ彼女は、自分が幼い頃にはすでに老齢の域に達していた父との優しい想い出を紡ぐように、丁寧に繊細に、“静寂よりも美しく”ボサノヴァを歌う。

アルバムは極めて親密な空気に驚かされる。
多くの収録楽曲は彼女が幼少期に父の歌で聞いたり、自宅にあった父のプライベートな録音から再発見したりしたもの。古典的なボサノヴァの技法に則ったアレンジが中心だが、ロウルが参照しているのは“世界的な音楽家”としてのジョアンではなく、自宅でパジャマ姿で歌う老いた父親の姿なのだ。だから収録曲も一般的な(そして少々、食傷気味な)ボサノヴァ名曲集ではなく、彼女自身の家庭内の記憶に根差したものになっている。ロウルは歴史的なボサノヴァの遺産を現代的に再解釈するのではなく、父と娘が共有した優しい歌の記憶を呼び覚まそうとしているようだ。

原点は、2015年に撮影されたというこの短く薄暗い映像に見られるような、自宅リビングでの父と娘の穏やかな時間なのだろう。

パジャマ姿で「Garota de Ipanema(イパネマの娘)」のギターを弾くジョアンと、歌うルイーザ(ロウル)。2015年の映像

父ジョアンとの古い記憶をたどるような、繊細で美しいアルバム

ジョアン・ジルベルトは2019年7月6日に88歳で死去。このとき、ロウルは15歳になったばかりだった。肉親の喪失に悲しみ、向き合ってゆくなかで、彼女は父の作品を改めて聴き直していった。その過程が、父との想い出を紐解くようなこのデビュー・アルバムに繋がったのだという。

(1)「João」は今作のプロデューサーを務めるセーザル・メンデス(Cézar Mendes)作曲/アルナウド・アントゥネス(Arnaldo Antunes)作詞による、ジョアン・ジルベルトへのオマージュとしてアルナウド・アントゥネスの2020年作『O Real Resiste』に収録されていた曲。「まるで地球の自転そのものが/あの声とあのギターだったかのように」といった歌詞が象徴するように、ジョアン・ジルベルトがつくり出したひとつの美しい文化を讃える。ここに収められた娘ロウル版は、原曲よりもより“ボサノヴァらしい”アレンジとなっており、慈しみに満ちた美しい感情に溢れる。

(1)「João」

(2)「O Amor Nos Encontrou」(愛がわたしたちを見つけた)はカルロス・リラ(Carlos Lyra)とロナウド・ボスコリ(Ronaldo Boscoli)の共作による未発表曲で、今回ロウル・ジルベルトによって初めて録音された、とても可愛らしいワルツ。

ジョアン・ジルベルトが重要なレパートリーとしていたカエターノ・ヴェローゾ(Caetano Veloso)作の(3)「Avarandado」には、カエターノの末息子トム・ヴェローゾ(Tom Veloso)が参加。ジョアンの面影を彷彿させると同時に、カエターノとガル・コスタ(Gal Costa)の名盤『Domingo』での、あの“温かく幸せな気怠さ”も思い出させてくれる。

(3)「Avarandado」

ジャズ・スタンダードの(4)「Tea For Two」や(8)「Mr. Sandman」は意外に思える選曲だが、これらも父ジョアンが家で演奏し聞かせてくれた外国の歌として、彼女の記憶に残っているもののようだ。「父が“君はアメリカで歌手になるんだ。みんな君を好きになるよ”と言っている映像が残っているのです」とロウルは振り返っている。ロウルはジャズだけでなく、古いサンバや伝統曲を幼い彼女に“贈り物”として歌ってあげた。

(11)「Cuidado Com O Andor」は、父ジョアンと歌う幼いロウルの貴重な映像が彼女のInstagramアカウントで投稿されている。この1940年代のサンバ・カンサォンはジョアンの公式な録音では残されていない曲で、古いサンバを愛したジョアンのプライベートでの姿が偲ばれる。

(12)「Qui nem Jiló」はルイス・ゴンザーガ(Luiz Gonzaga)作の名曲で、北東部の伝統音楽とボサノヴァの音楽的・精神的な繋がりが垣間見え、面白いアレンジとなっている。

(13)「Cavalo Marinho / Bicho Curutú」はジョアンが幼いロウルを寝かしつけるために歌ってくれていたバイーアの伝統曲と、バーデン・パウエル(Baden Powell)の曲のメドレー。

Loulu Gilberto プロフィール

ロウル・ジルベルト(本名:Luísa Carolina Gilberto)は2004年6月22日ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。アーティスト名「Loulu」はルイーザ(Luísa)の愛称であり、「Lulu」「Lou Lou」といった表記もみられた。
父親はジョアン・ジルベルト、母親はジョアンの2003年〜2005年の妻であったジャーナリストのクラウヂア・ファイソル(Claudia Faissol)。

彼女は父の死後に喪失感と向き合う過程で改めて父の作品を聴き直し、その経験が2026年のデビュー作『Loulu Gilberto』へとつながった。

Loulu Gilberto – vocal
Mario Adnet – guitar, chorus (9)
Guto Wirtti – acoustic bass
Jorge Helder – acoustic bass
Antonio Neves – drums
Marcos Nimrichter – piano, accordion
Marcelo Costa – percussion
Eduardo Neves – alto flute, flute
Aquiles Moraes – flugelhorn, trumpet
Everson Moraes – trombone
Arthur Dutra – vibraphone
Muiza Adnet – chorus (9)
Chico Adnet – chorus (9)
Joana Adnet – chorus (9)
Antonia Adnet – chorus (9)

Violin :
Mikhail Krutik
Natalia Kalinichenko
Leonid Osipov
Nadezhda Kharitonova
Anton Levin
Nadezhda Ostrikova
Alexandra Zubova
Lilia Sitdykova
Lyubov Gavrilova
Elena Ivanova
Fedor Shalaev
Evgenia Gulman

Viola :
Sergey Zarubin
Igor Bereznev
Ilya Yelagin
Alexey Ageev
Sergey Krutik
Dmitry Chernyshenko

Cello :
Elena Grigoryeva
Vsevolod Dolganov
Kirill Kurshakov
Ilya Yurshevich

Contrabass :
Kirill Ziborov
Dmitry Golovchenko

Guests :
Tom Veloso – vocal (3)
Daniel Jobim – piano (4)
Maria Carvalhosa – vocal (6)

Loulu Gilberto
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