多国籍バンド、Aleph Quintet の2nd『Hiwar』
ベルギー・ブリュッセルを拠点に活動する多国籍ジャズバンド、アレフ・クインテット(Aleph Quintet)の第2作目『Hiwar』。アルバム名はアラビア語で「対話」を意味し、ジャズと北アフリカ音楽の“対話”を通じて異なる文化的視点や音楽的感性を結びつけようとする彼らの姿勢を強く反映した作品となっている。
高く評価された前作『Shapes of Silence』(2023年)から2年。多様な文化が相互に影響しながら発達した地中海沿岸地域の音楽文化の最新形として、今作は正統かつより感情的な深みを伴った進化を遂げた作品と言って過言ではないだろう。“「対話」とは本質的に相互理解と真正性を求める探求を意味する”と彼らが説明するように、マグレブとヨーロッパの新旧の音楽言語による対話により、オリエンタル・ジャズの滋味が凝縮された素晴らしい音楽が、豊かなスケールで繰り広げられる。
アレフ・クインテットはチュニジア出身のウード奏者アクラム・ベン・ロムダン(Akram Ben Romdhane)と、ベルギー出身のヴァイオリン奏者マーヴィン・ビュルラス(Marvin Burlas)の出会いをきっかけとし、そこにチュニジア出身のピアニストのワジディ・リアヒ(Wajdi Riahi)、ベルギーのベース奏者テオ・ジッパー(Théo Zipper)、そしてフランス出身のドラムス奏者マクシム・アズナール(Maxime Aznar)が加わって2018年に結成された。今作ではドラマーがポルトガル出身のアレシャンドリ・ディオゴ(Alexandre Diogo)に代わっているが、北アフリカとヨーロッパの伝統を掛け合わせたジャズという音楽的な本質は結成当初からまったく変わっていない。
アルバムには全9曲が収録され、そのうちアクラム・ベン・ロムダンが6曲を作曲。残りはワジディ・リアヒが(2)「Monsters Are Everywhere」と(5)「Treize」の2曲、テオ・ジッパーが(4)「Le Chat Noir」の作曲者としてクレジットされている。アルバムの後半には組曲「Hiwar」が収録され、壮大な叙事詩を描き出す。
バンド名のアレフとはヘブライ文字のアルファベット(=アレフベート)の最初の文字「א」であり、アルゼンチンのマジック・リアリズムの巨匠ホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges, 1899 – 1986)の代表作に登場する“宇宙のすべての地点を同時に含む”神秘的な球体のことでもある。バンドはこの物語にインスパイアされ、リスナーに「複数の文化的視点を同時に体験させる」ことを目指している。
Aleph Quintet :
Akram Ben Romdhane – oud
Marvin Burlas – violin
Wajdi Riahi – piano
Théo Zipper – bass
Alexandre Diogo – drums