詩情豊かな歌とピアノが心に沁みる。マルタ・ゴメス&アントニオ・マゼイによる南米の歌

Marta Gómez & Antonio Mazzei - Arauca

歌手マルタ・ゴメスと、ジャズピアニスト アントニオ・マゼイのデュオ作

コロンビア出身の歌手/ギター奏者マルタ・ゴメス(Marta Gómez)と、ベネズエラ出身のピアノ奏者アントニオ・マゼイ(Antonio Mazzei)による『Arauca』。アルバムのタイトルは二人の出身国の間に流れるアラウカ川から取られており、南米の伝統曲(フォルクローレ)にジャズの洗練が加わった素敵な作品だ。

基本的にアントニオ・マゼイによるピアノと、マルタ・ゴメスの声を中心とし、一部楽曲ではマルタ・ゴメスのギターも加わる最小限の編成でしっとりと詩情豊かに歌われる曲が多い。カヴァー曲はフォルクローレ、リャネーラ1、ヌエバ・カンシオン2といったジャンルから取り上げられているが、それらの伝統的な演奏フォーマットではなくジャジーなピアノのみの伴奏のため、賑やかさはなく内省的でノスタルジックだ。

アルバムの幕開けを飾る(1)「El Cigarrito」は、南米の近代史を語る上で欠かせないチリの音楽家であるビクトル・ハラ(Víctor Jara, 1932 – 1973)の代表曲。アントニオ・マゼイの母国であるベネズエラではつい最近米国によってマドゥロ政権が斃された3ことも大きく報道されたが、南米の人々にとって平和の象徴であるビクトル・ハラの曲を冒頭に置いた意味は大きいだろう。

(3)「Hierro」

(4)「Mañana Empañeto el Rancho」はベネズエラのシンガーソングライタ、フアン・エレーラ(Juan Herrera)の曲で、同国リャノ地方のカウボーイ文化を象徴するユーモアと日常描写が特徴のリャネーラの人気曲のカヴァー。原曲の陽気な雰囲気を、ここではゆったりとしたリズムでしとやかに歌い上げており、メロディーの美しさが際立つ。

アントニオ・マゼイのピアノは繊細なタッチで、あくまでもマルタ・ゴメスの歌の引き立て役に徹している。マルタ・ゴメスの歌は深く、そして信念に基づいた力強さが垣間見える。
彼女の作詞作曲の(5)「Ella」は、次のようなメッセージが添えられている:

「Ella」(彼女)とは、私たち全員のこと。
愛のない関係に苦しみ、その痛みを沈黙させてきたあらゆる時代の女性たち。私たちは相手の沈黙に耐え、世界から身を守るために壁を築いてきた。子供たちのために、他にどこにも行く場所がないから、去ることができないから、私たちはそこに留まり、魂はゆっくりと消えていく。
そしてついに、必要な強さを見つけ、叫び、自由に走り、一人で太陽を見つめる。

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(5)「Ella」

(7)「Todo Este Campo Es Mío」と(8)「Mariposas」の歌詞のなかに繰り返し登場する「Mariposa」(蝶)も印象深い。前者はベネズエラの巨匠SSWシモン・ディアス(Simon Diaz, 1928 – 2014)、後者はチリの女性SSWマグダレーナ・マシー(Magdalena Matthey, 1971 – )の曲で、何世代にもわたって歌い継がれる南米文化を、自由に舞い、旅をする蝶という存在に重ねているように思える。

Marta Gómez – vocal, guitar
Antonio Mazzei – piano

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  1. リャネーラ(música llanera)…ベネズエラとコロンビアにまたがる平原地帯であるリャノ(Llanos)を発祥とする伝統音楽。 ↩︎
  2. ヌエバ・カンシオン(Nueva Canción)…主にチリやアルゼンチン、キューバなどで1960年代から70年代にかけて興った、伝統音楽と社会運動を結びつけた「新しい歌」の運動。社会正義、反帝国主義、政治的変革を歌詞に込め、軍事政権への抵抗歌として発展した。 ↩︎
  3. 2026年アメリカ合衆国によるベネズエラ攻撃…2026年1月にトランプ政権下の米国が実施した軍事作戦により、ベネズエラのマドゥロ大統領が拘束され、長年の独裁体制が終結した事件。 ↩︎
Marta Gómez & Antonio Mazzei - Arauca
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