フォルクローレを見つめ直す。クララ・プレスタ『Folclorito』
アルゼンチンのピアニスト/シンガーソングライター、クララ・プレスタ(Clara Presta)が、フォルクローレを主題としたアルバム『Folclorito』をリリースした。長年にわたって受け継がれてきたアルゼンチンの音楽を、その形式や起源、先人たちの仕事をリサーチすることから始め、ピアノと歌を中心に現代感覚で丁寧に昇華した作品となっている。
アルゼンチンのフォルクローレは、地域ごとの歴史や暮らしと深く結びついた音楽文化だ。チャカレーラ、サンバ(※Zamba. ブラジルのサンバ Samba とは全く異なる)、ガト、チャマメなど、土地によってリズムや旋律、歌の形式は異なる。踊りと結びついた躍動的な音楽もあれば、歌詞や旋律を通して人々の感情や土地の記憶を伝えるものもある。こうした音楽を理解するには、個々の形式が生まれた背景や、長い年月をかけて受け継がれてきた演奏の特徴に目を向ける必要がある。クララ・プレスタが制作に先立って伝統音楽を調査したというのも、その多様な姿を知るためだったのだろう。
本作の楽曲を支えているのはクララ・プレスタが弾くピアノだ。アルゼンチン・フォルクローレがもつ独自のリズムや旋律を再現しながら、ジャズやクラシックの語法を取り入れた彼女の作編曲はいわゆる“ネオ・フォルクローレ”のシーンの真ん中に自身を位置付けつつ、より深く伝統を理解しようとする姿勢によって見事な結果を生んでいる。
収録の8曲は、3分に満たない小品が多い。大仰なサビや、長い器楽ソロを聴かせ場にするのではなく、短い曲のなかで旋律や和声、演奏のニュアンスを丁寧に扱っているのが印象的だ。こうした作りでは、楽器の音や歌のわずかな変化が曲の表情を左右する。いくつかの楽曲ではゲストが参加するが、基本は彼女のピアノ弾き語りで構成されており、収録時間は短くともその密度は驚くほど濃い。
ゲストも充実
アルバムに参加するゲストにも注目したい。
(4)「Las dos Marías」にはブエノスアイレスの歌手ロラ・パルダ(Lola Parda)が参加している。彼女は音楽活動のほか、演劇的な表現を取り入れたプロジェクト「La Jacinta」でも知られる歌手だ。演劇と音楽の双方に関わる彼女の参加は、フォルクローレの表現に別の角度から光を当てている。
(6)「Para renacer」には、マドリードを拠点に活動する歌手ミリアム・ラトレセ(Miryam Latrece)が参加し、美しいデュエットを聴かせてくれる。異なる土地で活動する音楽家との共演も本作の聴きどころのひとつだ。
Clara Presta プロフィール
クララ・プレスタは1986年アルゼンチン中部コルドバ州ビジャ・ドロレス出身のピアニスト/シンガーソングライター。幼少期からピアノと歌に親しみ、アルゼンチンのフォルクローレを基盤に、世界各地の音楽や即興演奏の要素を取り入れた独自の音楽を追求している。
音楽教育では、アルゼンチンの伝統的な大衆音楽を代表するピアニスト、イルダ・エレーラ(Hilda Herrera)にピアノとアルゼンチンのポピュラー音楽を学んだほか、フアン・カルロス・“モノ”・フォンタナ(Juan Carlos “Mono” Fontana)から和声や即興演奏を学んだ。さらに、ルイス・レウィン(Luis Lewin)、ヘルマン・ナヘル(Germán Náger)、マリア・イネス・カラメロ(María Inés Caramelo)、ロシア出身のピアニスト、タチアナ・シュンドロスカヤ(Tatiana Shundroskaya)らにも師事し、ポピュラー音楽とクラシック音楽の双方から影響を受けている。
2018年、コントラバス奏者フェデリコ・セイマンディ(Federico Seimandi)とのデュオ名義で、デビュー作『Casa』を発表。2021年には、コルドバのシンガーソングライター、ロドリゴ・カラソ(Rodrigo Carazo)との共同プロデュースによるソロアルバム『Pájara』をリリースした。日常生活や愛、変化といったテーマを、ピアノと歌を中心とする繊細なアレンジで描き、詩的な世界観を確立している。
2024年には、フアニート・エル・カントール(Juanito el Cantor)、マティアス・セジャ(Matías Cella)、トマス・ボケ(Tomás Boqué)、ロドリゴ・カラソらと制作したEP『Las Mareas』を発表。また、ウルグアイのシンガーソングライター、ソフィア・アルベス(Sofía Álvez)との共作EP『Jardín las delicias』もリリースしている。
演奏家としては、アルゼンチンのシンガーソングライター、ラリー・バリオンヌエボ(Raly Barrionuevo)やアドリアン・ベラ(Adrián Berra)の作品・公演に参加。2021年からはベラのバンドのレギュラーメンバーとして活動し、録音やツアーを通じて経験を重ねてきた。そのほか、ホセ・ルイス・アギーレ(José Luis Aguirre)、アナ・ロブレス(Ana Robles)、ロドリゴ・カラソら、アルゼンチンの独立系音楽シーンを代表する音楽家たちとも共演している。演奏活動に加えて、音楽教育にも携わる。
2026年には、アルゼンチンのフォルクローレを主題としたアルバム『Folclorito』を発表。伝統音楽の形式や起源、先人たちの仕事を調査するプロセスを経て、ピアノを中心に、フォルクローレのルーツと和声の探究、詩的な表現を結びつけた。スペインでアコースティックな編成による同時演奏を基本に録音され、アルゼンチンの伝統を現代の作曲家自身の言語で捉え直す試みとなっている。