レトロお洒落なエレクトロスウィングの王道 TAPE FIVE 新譜と1929年に世界を揺るがした大事件

Tape Five- The Roaring 2020s

エレクトロ・スウィングの雄、TAPE FIVEが放つ2019年最注目作

8月に発売されたキャラバン・パレス(Caravan Palace)新譜『Chronologic』に続き、2019年のエレクトロ・スウィング界隈でもっとも期待値の高かったテイプ・ファイヴ(Tape Five)の新譜『The Roaring 2020s』がリリースされた。
前者キャラバン・パレス新譜は随分とエレクトロニカ方面に舵をきり、洗練を極めた凝ったサウンドで新たな進化を見せつける快作だったが、テイプ・ファイヴはエレクトロスウィングの正統進化とも思える出来栄えで、ジャズ/スウィング成分が濃いめ。

本作の楽曲のMVは現時点で公開されていないようなので、とりあえずティーザー動画を紹介しよう。

…いつものTape Fiveのサウンドが聴けて安心した人も多いのではないだろうか。

ジャズが流行のダンス音楽だった時代の追憶

1920年代〜1930年代は、ベニー・グッドマン、デューク・エリントン、グレン・ミラーといった作曲家・演奏家によるスウィング・ジャズと呼ばれるダンスミュージックが米国で大いに流行した。

今作の冒頭を飾る(1)「Party Like Its 1929」というキラーチューンで、“Tonight we gonna party, like its 1929”という歌詞が歌われるが、1929年といえば俗にいう「暗黒の木曜日」と呼ばれるニューヨーク・ウォール街の株式大暴落があった年だ。10月24日のこの大事件をきっかけに世界恐慌が引き起こされた。

このアメリカ経済が前例のない最大の危機を迎えたときに現れたヒーローが、ジャズ・クラリネット奏者のベニー・グッドマン(Benny Goodman, 1909年5月30日 – 1986年6月13日)だった。彼が演奏するスウィングジャズは大恐慌という暗黒の時代の中の癒しであり、多くの人が週末のスウィングジャズ・パーティーを生きる楽しみにしていただろうことは想像に難くない。大恐慌のど真ん中にありながらも、多数のダンスホールやレコーディングスタジオがあったニューヨークには全米各地から仕事を求める才能あるミュージシャンが集まり、当時の音楽シーンを牽引した。

そう、今では何となく小難しい音楽というイメージを持たれがちなジャズも、その黎明期は人々の暮らしの中心にあるダンス音楽だったのだ。

Tape Five の今作『The Roaring 2020s』がデジタル配信リリースされたのが2019年10月24日(木)。1929年10月24日の“暗黒の木曜日”を意識していることは間違いないだろう。

エレクトロ・スウィングの王道

Tape Five の代表曲「Bad Boy Good Man」はまさしくスウィングジャズのヒーロー、ベニー・グッドマン(Benny Goodman)を意識した楽曲だろう。

TAPE FIVE最大のヒット、2010年のアルバム『Tonight Josephine!』収録の「Bad Boy Good Man」のMV。

テイプ・ファイヴ(TAPE FIVE)は2003年に作曲家/音楽プロデューサーのマーティン・スタートハウゼン(Martin Strathausen)によってドイツで結成された。初期はスウィングジャズ、ボサノヴァ、ラテン音楽の要素が濃かったが、次第に“エレクトロスウィング”と呼ばれるジャンルを確立していき、そのジャンルを代表するグループに。バンド名は、言わずと知れた5拍子のジャズの名曲テイク・ファイヴ(Take Five)の捩りだ。

彼らの音楽性はまさにスウィング・ジャズ×現代のエレクトロニカ・ミュージック、つまり“エレクトロ・スウィング”で、その王道サウンドは右に出る者はいない。
基本四つ打ちのバスドラムに、スウィングするリズム、サックスやトランペットのオブリガートと呼ばれる合いの手(=対旋律、カウンターメロディ)を多用しレトロなジャズの痺れるようなかっこよさを現代感覚で発信している。

王道を突き進むが故か、アルバム全体を通じて若干曲調が単調な印象も受けるものの、エレクトロ・スウィングというヨーロッパを席巻する音楽を未聴の方にとって、入り口としては最高のアルバムだと思う。

エレクトロ・スウィング。週末のドライヴに最高に合う音楽だ。

Tape Five- The Roaring 2020s
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