トロピカルハウスの貴公子・Kygoが放つ最新作『Thrill of the Chase』に見るダンスミュージックの現在地。

アヴィーチーから受け継がれたダンスミュージックのバトン

EDMという言葉を聞かなくなって久しい。
コロナ以前、多くの大箱クラブでHipHopを蹴散らし、「All Genre」という免罪符を掲げたイベントで鳴り響いていたのは間違いなくEDMだった。
当時、HipHopのDJをやっていた自分としては苦虫を噛み潰すような思いで現場を見つめていたが、音楽のトレンドは切なく儚い。
そのEDMもまた、輝ける場所を失ってしまったからだ。
では、EDMは完全に消滅してしまったのか。
答えはNoである。
EDMのカリスマ、アヴィーチー(Avicii)に憧れ、また親友としてダンスミュージックの門を叩いたカイゴ(Kygo)
2人の天才によって受け継がれたバトンは、トロピカルハウスとして、今もフロアを沸かせ続けている。

EDM×チルアウト=トロピカルハウス

そもそもトロピカルハウスとは何なのか。
レイドバックしたシンセサイザーがゆったりとバックに流れる別名「癒し系EDM」であるトロピカルハウスは、オーストラリア出身のアーティスト、トーマス・ジャック(Thomas Jack)が生みの親と言われており、まさに南国感溢れるサウンドを特徴としたハウスの総称である。
その音楽性からボーカル曲との相性も良く、代表曲「Firestone」で一躍時の人となったカイゴはこれまでもジョン・レジェンド(John Legend)ホイットニー・ヒューストン(Whitney Houston)といった超大物アーティストとのコラボを実現させている。
そして、今回発表された最新作『Thrill of the Chase』は今までの作品通り、個性豊かなボーカリストを迎えたアルバムであるが、これまでの作品に比べ、より肩の力の抜けたアルバムとなっている。

カイゴの代表曲「Firestone」。

気心知れた仲間達と作り上げた極上のトロピカルサウンド

まず特筆すべきはその客演陣。
ドラマチックなサウンドで本作の幕を開ける(1)「Gone Are The Days」はイギリスのSSW、ジェームズ・ギレスピー(James Gillespie)をフィーチャー。(2)「Love Me Now」では、「Control」で話題となったドイツの若きSSW、ゾーイ・ウィーズ(Zoe Wees)を起用。(3)「Lonely Together」のボーカルを担当するDagny は同郷のノルウェーのポップシンガーだ。その他、過去作でもソングライティングに参加しているイギリスのフィル・プレステッド(Phil Plested)など、大物アーティストを起用せず、近しいアーティストで固めた本作は、それだけでもバラエティに富んでいる。

(6)「Dance Feet」はジョナスブラザーズ(Jonas Brothers)のジョーによるダンスロックバンド・DNCEが参加

上記のようにパーティー要素の強い楽しげなダンスナンバー多めの本作。カイゴの代名詞である、作品を通してのトロピカルハウス濃度は前作『Golden Hour』に軍配が上がるものの、本作に収録されているトロピカルハウス楽曲もまた負けずとも劣らない粒揃いだ。
X・アンバサダーズ(X Ambassadors)の伸びやかな歌声がシンガロング必至の(4)「Undeniable」を始め、同じくエモいサウンドを得意とするDJ、グリフィン(Gryffin)と共演した(8)「Woke Up in Love」と、流れてくるのはどこまでもトロピカルで心地よいサウンドであり、オーストラリアのディーン・ルイス(Dean Lewis)が携わった2曲は楽曲・MVともに今まで以上の完成度で、エモーショナルな感情を我々に感じさせる内容となっている。

ディーン・ルイスとのコラボによる(12)「Lost Without You」。幼少期の出会いから別れまでを描いたドラマチックなMVは同じくディーン・ルイスとコラボした(10)「Never Really Loved Me」と地続きになっている。

本作はサウンド・映像ともに映画のような展開が広がるドラマチックな楽曲(14)「Freeze」で締めくくられる。


人を踊らせるためのDJはいつしかクラブという空間を独自の音楽と世界観でプロデュースするようになった。
そして今、クラブという場所の制約を飛び越え、日常に寄り添い始めている。
日々の生活を少しだけハッピーにしてくれるカイゴの新たなダンスミュージック。
是非、お手元のプレイリストに加えてみて欲しい。
なんてことない日常をドラマチックに感じることが出来るはずだ。

プロフィール

ノルウェー/ベルゲン出身のDJ/プロデューサー、本名Kyrre Gørvell-Dahll。
6歳よりピアノを始め、15歳でDJをスタート。コールドプレイやレッド・ホット・チリ・ペッパーズを好んで聞いていたが、アヴィーチー「シーク・ブロマンス」に衝撃を受け、エレクトロニック・ミュージックの道を志すようになり、同時に楽曲制作を開始。
南国を連想させる、ゆったりとしたビートが特徴的な“トロピカル・ハウス”の火付け役として注目を浴び、自身初のオリジナル楽曲「ファイアーストーン ft. コンラッド・スーウェル」などが大ヒット。その後、音楽ストリーミング・サービスSpotify史上最速で再生回数10億回を突破したアーティストに。
2016年5月にリリースしたデビュー・アルバム『クラウド・ナイン』は全米ダンス/エレクトロニック・アルバム・チャートで1位、全英チャート3位に加え、全世界18カ国のiTunesチャートで1位、ここ日本でもiTunes総合アルバム・チャート2位、ダンス・アルバム・チャートでも1位を獲得。
2016年8月にはリオ五輪の閉会式でパフォーマンスを行うなど話題に。
2022年12月、4作目となる『Thrill of the Chase』をリリースした。
SONY MUSIC JAPAN 公式より抜粋)

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