地球の真裏・ブラジルから届いた7弦ガットギターの話

Violao 7 Cordas

ブラジルから届いた7弦ギターの話

去る2021年7月の下旬、私の手元にブラジルから7弦ガットギターが届きました。

元の所有者はブラジルのシンガーソングライター/心理学者のマルコス・ルファート(Marcos Ruffato)で、現在は使われていない彼の古いギター(Lucenir Luthier Artesãoという、リオの老舗楽器店「Bandolim de Ouro」でも取り扱われていた楽器工房で製作されたもの)を譲っていただいたものです。

ボディはセドロホーザ(Cedro rosa)と呼ばれる木材からできているようで、まだほんのりと木の良い香りのするギターを構え弦を鳴らしてみると、その乾いたサウンドから確かなミナス・ジェライスの風が感じられ、えも言われぬブラジルのフィーリングがありました。

今回はブラジルから遥々海を渡ってやって来たこの7弦ギターにまつわる話をご紹介します。
7弦ギターに少しでも興味を持ってくれた人にとって、少しばかりお役に立てることもあるかもしれません。

ブラジルから届いた7弦ガットギター

7弦ガットギターとは?

事の顛末を書く前に、そもそも7弦ガットギターとはどういう楽器か?というところから。

通常のガットギター(クラシックギター)の弦は6本です。

弦が1本多い7弦ギターというのは、エレキでは比較的普及しておりそう珍しくもありませんが、クラシックギターの場合は日本ではなかなかに珍しい楽器です。

実際、相当大きなクラシックギター専門店にでも出向かないとお目にかかることはできません。
運よく7弦クラシックギターを見つけたとしても、それはとても高価なものでしょう。
これはおそらく、日本では7弦のクラシックギターは需要がほとんどないためと思われます。

日本では非常に珍しい7弦ガットギターですが、ブラジルでは「violão 7 cordas(ヴィオラォン・セッチ・コルダス = 7弦ギター)」と呼ばれており、ブラジルの音楽では広く一般的に用いられています。日本円にして2万円程度の廉価な量産品なども販売されており、主にショーロやサンバといったジャンルの音楽で利用され楽しまれています。

ブラジルにおける7弦ギターの歴史

元々、7弦のガットギターはロシアから来たジプシーによって20世紀前半のブラジルにもたらされました。

ロシアのジプシーたちは通常の6弦ギターの高音側にHigh-Aの1本の弦を足したものを使っていましたが、この楽器をブラジル人の誰か──ドンガ(Donga)というミュージシャンだと言われているが、よく分かっていない──が最初に手に入れ、弦の構成を変えました。

ジプシーたちの調弦では第1弦から順にA E B G D A E のチューニングになっていたものを、高音側は6弦ギターと同じにし低音にLow-C弦を増やしE B G D A E C としたのです。

現在ではこのチューニングがブラジルでは一般的となっていますが、第7弦をLow-BやLow-Aに調弦することもあるようです。

ブラジルから日本へとやってきた7弦。事の顛末

さて、ここからは我が家に7弦ギターがやってきた経緯です。

マルコス・ルファートと彼の音楽との出会い

私がシンガーソングライターで7弦ギター奏者のマルコス・ルファート(Marcos Ruffato)を知ったのは2020年の9月の終わりでした。

同年5月号を以て休刊となってしまった歴史ある月刊誌『ラティーナ』の最終号でダヴィ・フォンセカ(Davi Fonseca)のインタビュー記事を担当させていただいていたこともあり、なんとなくダヴィ・フォンセカの新しい音源が出ていないかどうかを調べるためにApple Musicで「Davi Fonseca」を検索したところ、彼が1曲でゲスト参加しており、数日前にリリースされたばかりのマルコス・ルファートのデビュー作『Vata』を見つけたのです(この出会いは本当に偶然でした)。

聴いてみると、1曲目からブラジルの音楽の魅力を凝縮した万華鏡のような色彩豊かなその音楽に一発でノックアウト。さらに曲によってはトニーニョ・オルタやセルジオ・サントスら、すごいゲストの名前が多数ありました。

これは…!と思ってすぐにアルバム紹介記事にまとめ、その後ほどなくしてFaceBookでマルコス・ルファート本人とも繋がり、FaceBookメッセージを通じてインタビューもしました。

インタビューの最後で、個人的に関心を抱いていたブラジルの7弦ギターについても話を聞いています。詳細は記事を読んでいただきたいのですが、その内容は7弦を買いたいのだがおすすめのメーカーはあるか?というものでした。

7弦の購入経緯

その後、10月の下旬頃にはマルコス・ルファートの『Vata』日本国内盤を制作するのでライナーノーツを書いてほしいという依頼をアプレミディ・レコーズから頂いたりする中で、マルコスとのやり取りも増えていきました。

私自身もギターを弾いていることを彼に伝え、年明け1月には本気で7弦を買おうと思い、ブラジルの通販サイトで量産メーカーのRoziniの安いギターを買うために協力してほしいとお願いし、購入代行を試みてもらいましたが、どうやらブラジル国外への直接発送はできないことが判明。他も探しましたがなかなか直接日本にギターを発送できる通販サイトがなく、ここで一旦7弦ギター入手の夢は諦めへと変わりかけてしまいました。

それからしばらく経って2月の終わりに、マルコスからこんなメッセージが届きます。

「『Vata』の曲の大半で使っていた僕の古いギターが元カノの家に置きっぱなしなんだけど、それを売ろうと思っているんだ。もし良ければ、君が買わないかい?ケースがないからまずケースを買ってもらって、送料を事前に送ってもらえれば、しっかり梱包して日本に送るよ。ギター自体の値段は届いた楽器の状態を見てもらってから決めていいよ!」

私は舞い上がりました。

憧れの7弦ギター、それも大好きな音楽を生みだしてきたマルコスが使っていた楽器を入手できる…!!

とはいえ、マルコス本人にとっては深い思い入れのあるはずの楽器です。
そんな大事なものを売ってしまって本当に良いのかしっかり確認しました。

彼曰く、「たしかに愛着のある楽器だけど、今は新しい楽器を気に入っているんだ。それにもう使わないものを所有している意味はない。僕は一台の楽器が人の手から手へ、いくつかの人生を渡っていくのは良いことだと信じている。これは僕の最初の7弦との素敵なお別れになるし、新しいパートナーにとっての素敵な出会いになると思う」

…過去にインタビューをした時にも感じましたが、マルコスは本当に素晴らしい哲学を持った人です。詩人です。

ギタリストというと、いつの間にか家に勝手にギターが増殖していく人が多いイメージでしたが、彼の美学はその真逆でした(私はつい、我が身を振り返ってしまいました…)。

遠い遠い国、地球の真裏のブラジルでひとりのミュージシャンと多くの時間を過ごし、彼とともに多くの音楽を生み出してきた楽器が海を越えて日本へ。

アマチュアの私でさえ自分の楽器への愛着は深いのに、プロになり素晴らしいアルバムを生み出した音楽家が、まだ知り合って1年にも満たず実際に会ったこともないアマチュアのギター弾きである日本人に大切な楽器を売るということ。当然迷いや不安もあったと思います。売ったところで、こいつはまともに楽器を弾き愛してくれるだろうか、とか(私はマルコスの演奏を何度も観ていますが、私が弾いているところは僅かしか見せていません)。

私は彼の勇気と愛情に深く感謝し、楽器を購入したい意向を彼に伝えました。

マルコス・ルファートが弾いている動画。この楽器が地球を半周して日本に届いたと思うと感慨無量です。

時間はかかったが、輸出入はスムーズに

購入を決めたのは3月月初でした。

そこから一緒にギターケースを選んでもらい、現在のギター保管者の家に届くように手配。

なんせ長旅をしてもらうので、丈夫なハードケースである必要があります。
こちらのケースを選びました。購入当時480ブラジルレアル、約1万円。

https://produto.mercadolivre.com.br/MLB-1097670354-case-violo-6-e-7-cordas-estojo-termico-top-luxo-wc-_JM

ブラジルへの送金は銀行を使うとめっちゃ高い手数料を取られるので、色々と調べてWiseという国際送金サービスを使いました。イギリスのフィンテック企業のサービスで、国際送金なのに手数料がバカみたいに安い(この手数料の安さは、実際には国際送金は行われておらず、送金する側の国と受け取る側の国でそれぞれ1回ずつ国内送金されているだけという仕組みのため)。送金手続き自体もとても簡単、スムーズでした。

ここまでは順調。しかしそこからはCovid-19の影響や、ギター自体がマルコスの手元にないこともあり発送までには少し時間がかかりました。

急いで必要なものではないので、のんびりと待つことにし、その間にマルコス・ルファートの曲で一番好きな曲のひとつ「Frevo pra Acordar」のコード譜をもらって自分の6弦ガットギターで練習しました。

nana-music.com

↑6弦ギターで弾いてみた「Frevo pra Acordar(目覚めのためのフレーヴォ)」。美しいテンションコードの連続や、巧みな一時的転調がほんとに素晴らしい曲です。

マルコスが色々と手配してくれたおかげで、7弦ガットギターは6月の中旬、ついにブラジルから日本への長旅へと出発しました。

ブラジルから日本へ約1ヶ月、ついにギターが届いた

ブラジルでの輸出通関手続きが終わったのが6月末。発送から出国まで約2週間かかったようです。
そこから待つこと約25日間、日本での税関検査に到着。海外からのギター輸入は税関で止められることも多々あるというようなことを聞いていたのでドキドキしましたが、なんと翌日には無事に自宅に届きました(早すぎてびっくり!)。

税関で何かあればそのノウハウを書き留めておこうとも思いましたが、今回の取引ではその心配は全く無用だったようです。

届いたギターに張られていた弦は錆びていました(1年以上放置されていたから、そりゃそうだよね…)。
よく見るとボディにはクラック(ひび割れ)もあり、ネックは順反り。
それでも弾いてみると音には影響がないようで、もともと持っていた自分の6弦フラメンコギターと比べてもとても深みのある美しい音がしました。

届いた時の状態のまま、私が演奏した動画。
少しだけ第7弦も使ってマルコス・ルファートの「Frevo pra Acordar」を弾いてみる。
指板はレモンオイルでお掃除。

第7弦に張る弦は?

弦が錆びていたので新しい弦に交換する必要がありますが、ここで問題となるのが「第7弦にはどんな弦を張れば良いの…?」ということ。

日本では7弦ガットギターを使っている人はかなり限られているため、7弦にどんな弦を張ったら良いかという情報もweb上では見つかりませんでしたが、幸いなことにTwitterのフォロイーのギタリストさんに「10弦クラシックギター用の第8弦をバラで買うと良い」という情報を伺うことができました。

そこで事前に買っておいたのがHANNABACH ( ハナバッハ ) の「8158HT」。

クラシックの10弦ギターは主に低音の7〜10弦は共鳴を目的に張られ、一般的にはA(10弦), B(9弦), C(8弦), D(7弦)という調弦になるようです(バロック式/リュートスタイルの場合)。

自分は7弦をCに調律したいため、10弦クラシックギターの第8弦(C)が最適というわけです。

Amazonにも売っていましたが、サウンドハウスと比べると3倍も高いため、私は圧倒的に安いサウンドハウスで調達しました。

もともと、第7弦にはフラットワウンドのエレクトリックベース用の弦が張られていました。
1〜6弦には愛用のSavarez 510CRを、そして7弦にはHannabachを張りました。

張り替えてみると、まろやかで太く完全にベースの音色だった以前のフラットワウンドの7弦と比べ、7弦も明らかにクラシックギターの音に。この辺はどんなサウンドを得たいかの好みの問題だと思いますが、フィーリングが随分と異なるのでもう少し弾き込んで自分の音を見つけていきたいところ。

7弦ギターでバイシャリーアを弾きたい!

普段弾いているボサノヴァやサンバのギターの低音側を拡張する、というだけでもかなり面白いのですが、練習したいのはバイシャリーア(baixaria)というスタイルの演奏法です。

バイシャリアとはショーロやサンバで低音を担う7弦ギターで特徴的に聴くことができる、よく動く低音の対旋律のこと。これが7弦ギターの醍醐味でもあるので、それらしく弾けるように研究したい。いろんな演奏を見られるYouTubeは独学の強い味方ですね(とはいえポルトガル語の解説がほとんどなので、見様見真似でやるしかないのですが)。

ダグ・デ・ヴリーズ(Doug de Vries)氏による7弦ギターやバイシャリアの解説動画。

もう少ししっかり弾けるようになったら、またNanaなどに演奏音源をアップしていきたいと思っとります。

7弦ギターは、6弦を弾ければ意外とすぐに慣れてしまうものです。
いずれ、日本でももっと7弦ガットギターを普及させていきたいですね。

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