リオの重鎮エドゥアルド・ネヴィス、多彩なゲストと繰り出す奇想のブラジリアン・ジャズ
ブラジルのサックス&フルート奏者エドゥアルド・ネヴィス(Eduardo Neves)の2020年作『Olayá』。
近年は息子のアントニオ・ネヴィス(Antônio Neves, 本作にもトロンボーンとドラムスで参加)が現代ジャズ界隈で大きく注目されているが、1968年生まれのこの父もまだまだ負けず、ブラジル音楽の伝統を誇りに持ちつつ、やはり相当に斬新でクールな音楽を聴かせてくれた。
ボサノヴァやジャズ・サンバの流れを汲む作風はやっぱり今でもオシャレだし、時折覗かせる独特で現代的なアレンジのアイディアもさりげないが重要なエッセンスだ。
切れ味鋭いジャズサンバ(1)「Caiu Atirando」にはバンドリンの第一人者アミルトン・ヂ・オランダ(Hamilton de Holanda)が参加。バンドリンとフルートのソロは軽快、だがどこか全体的にアレンジは奇抜でおどけており、そんなところに息子アントニオとの共通点を見出してしまう。
(2)「Água na Boca」もブラジルからアメリカに渡りショウビズ化されたスタン・ゲッツ的ボサノヴァを逆輸入したようなよくわからない艶やかさのある魅力的なナンバーで最高だ。
そしてまさかの超スタンダード(3)「Garota de Ipanema(イパネマの娘)」もイントロのサックスによるメロディーの絶妙なアレンジで期待を抱かせてくれるが、その後に登場するゲストの大ベテラン歌手ゼカ・パゴヂーニョ(Zeca Pagodinho)の圧倒的な存在感は泣く子をも否応なく黙らせる。
(5)「Mitch’s Boogie」には2021年6月に惜しくも訃報が伝えられたブラジリアン・ジャズの重鎮トロンボーン奏者ハウル・ヂ・ソウザ(Raul De Souza)が参加。80代とは思えない太く力強いトロンボーンの音色が美しく響いている。
MPB界の大スター、セウ・ジョルジ(Seu Jorge)がゲストしたバーデン・パウエル作曲の(7)「Tempo de Amor」も聴き逃すことはできない。ここではセウが低音の渋い喉でヴィニシウス・ヂ・モライスによる詞を見事な表現力で歌い上げる。
ラストの(10)「Urubu Malandro」は元々はブラジル北東部の舞踏音楽で、ショーロの伝説的作曲家ピシンギーニャによって有名になった曲だが、ここではマルコス・スザーノ(Marcos Suzano)によるパンデイロによって現代的なリズムに再構築され、エドゥアルド・ネヴィスの軽やかに舞うフルートとアキレス・モライス(Aquiles Moraes)のトランペットがなんとも言えない高揚感と寂寥感を演出する好演となっている。
ブラジルの伝統的な音楽とジャズの技術に裏打ちされた確かな表現が、エドゥアルド・ネヴィスという鬼才の個性を通じて最高の形で結実した大傑作だ。
Edu Neves – flute, tenor saxophone
Adriano Souza – piano, keyboards
Alexandre Caldi – baritone saxophone
Andréa Ernest Dias – bas flute
Antônio Neves – trombone, drums
Aquiles Moraes – trumpet, flugelhorn
Bernardo Aguiar – percussion
Bruno Barreto – vocal (9)
Bruno Patrício – tenor saxophone
Cassius Theperson – drums
Everson Moraes – trombone
Gabriel Policarpo – percussion
Guto Wirtti – bass
Idriss Bodrioua – alto saxophone
Levi Chaves – clarinet
Mafram do Maracanã – percussion
Marcos Suzano – percussion
Paulino Dias – percussion
Rafael dos Anjos – guitar
Rui Alvim – alto saxophone, clarone
Thiago da Serrinha – percussion
Vander Nascimento – trumpet
Wanderson Cunha – trombone
Guests :
Hamilton de Holanda – bandolim (1)
Raul de Souza – trombone (5)
Seu Jorge – vocal (7)
Zeca Pagodinho – vocal (3)